31.ニガコク?
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私の苦手。 あれからなんだかんだと針谷がうるさい。 早く諦めれば良いのに。 いつもの朝のランニング。 今日も志波と一緒に走っている。 5月の森林公園。 夏に向かって枝も葉っぱも勢いをつけて広がって 緑が濃くなってきたなー。 4月にお花見した並木道も すっかり緑の屋根が出来ている。 木陰は涼しくて これからの季節のトレーニングには必要。 …だよね、うん、 そうなんだけど… 「、なにキョロキョロしてるんだ? 下に何か落ちてるのか?」 「え?べ、別に、何も?」 「そうか?」 「そうだよー、あははー」 『だって踏みたくないし』 なんて言えません。 アレ踏んだら最悪でしょ。 っていうか姿とかも見たくないんですけど。 「あ………」 「え?な、なに?」 「肩に…」 「肩?」 「毛虫ついてるぞ」 「け、け、け……………!!!!!」 「あ、おい、っ!」 いやあああああ! 落ちてー! 取れてー! うわあああああんん!! ダッシュしてんのに、 な゛んでとれないのー?!?!?! 上からなんて反則だぁ! 並木道なんか嫌いだー! はやくでだい゛!!! うあああああああああ!!! ムリ! ホントムリィ!! 取れないー! 取れてー! うえええーん! だずげでえ! 「!待て!止まれ!」 「うううーっ」 「取ってやるから…止まれっ!」 「わあああんっ」 「わかったから、落ち着け」 志波、落ちてた小枝で ヒョイっと取ってくれた。 「はあああ………」 ヨロヨロとベンチに 座りこんだ私は 完全な放心状態。 「おい、大丈夫か?」 「はあああ………」 思考停止 ピヨピヨピヨピヨ……… あ、そうだ。 脱がなきゃ。 ヤツがついたTシャツなんて ゼッタイ着ていらんない。 脱がなきゃ。 脱がな… 「おいっ?!何してる!」 「毛虫がついたTシャツ 気持ち悪い… 捨ててく………」 ぬぎぬぎ 「ここで脱ぐな!」 「下にタンクトップ着てるから ダイジョブダイジョブ」 「やめろ!」 「だって! だってー!! 毛虫ついたんだよ! ムリ! 絶対ムリイ!!!」 「オレがはらってやるから…… 頼むからここで脱がないでくれ」 パタパタ ポンポン 「ええーっ… それでもムリ! ムリなのぉ!!!」 確かにそうやってくれると、 ヤツのモゾモゾした感触は薄れていくけど… でも でもー!! 「フーッ」 「ひゃあ!な、なにー?」 「はらってる…」 えーえええっ?! サラッと 『普通だろ?』 みたいに言われたけど、 そうなのかなー??? だって、だって、 別に毛がいっぱいついたわけじゃないし! ふーっってやって何か取れるの??? フー、パタパタ、ポンポン しばらく繰り返してくれたけど、 なんかもう毛虫の感触より、 その息が気になるんですけどー! ひああああ……… 「おまえの苦手、毛虫だったのか」 「針谷には絶対言わないでよ… 何されるか分からない…」 「ああ………ック、 ハハハ………!」 「う゛ー、なによー」 「悪い、おまえの慌ててた顔と あの逃げっぷり思い出したら…… 止まんねぇ………ククッ」 「そんなの思い出さなくていいし、 笑いすぎだから!!」 笑いが止まらない志波。 小突いたんだけど、 それでも止まらない。 でも見たことないぐらいの すごい笑顔。 そんな志波を見れたから プラマイゼロ? むしろプラ? いや… でも、さすがに、 今朝はダッシュしすぎて疲れた… やっぱり 私にはニガコクはムリ… 「おはようございます!」 「おはようございます!」 朝から校門前で挨拶運動とやらをしている千代美。 と生徒会の氷上。 あんまり挨拶を返す生徒はいないんだけど… 「おはようございまーっす!!!」 挨拶&大きな声は体育会系の基本!ポリシー! どんなにダルくても!! 「さん、おはようございます」 「千代美、挨拶運動頑張って! やっぱ挨拶は大事だよ。うん」 「きみ、さんだったね? 素晴らしい挨拶だ。 僕達と一緒に挨拶運動をやってもらえないだろうか?」 「え?それはちょっと… 応援はしてるから!じゃ!」 挨拶は大事だけど 校門前で盛大にやるのは やっぱり気が引けるので 逃げますよー。 はー、それにしても、 ポリシーとはいえ、 疲れてる時にテンションあげるのは 結構パワー使うのよね… 「ちゃん、朝から疲れてない?」 「あ、あかりぃ…、 ちょっと朝のトレーニング張り切り過ぎて…」 「ククッ…」 うわっ。 昇降口で会うなんてめずらしくて嬉しい。 でも今朝はあんなのがあったから微妙ー! っていうか! まだ笑ってるよ、志波! 今度ニガコクあっても助けてやんないから! 「志波君は朝から楽しそうだね?」 「ああ、朝からおもしろいもん見てきたからな…」 うー! 「、海野さん、志波君、おはよ」 「結花、おはー」 「あれ?志波君、笑ってるのめずらしいねぇ?」 「…そうか?」 確かにそうかも。 教室じゃ無表情でぼーっとしてるか寝てるもんね。 たまにクリスや針谷と話してると少し和んでるけど。 そんなこと気にしてるのは私だけ って思ってたのに、 結花も結構見てるんたなあ、 志波のこと。 「、一高との試合、今度の日曜の1時からね。 来れるよね?」 「うん、陸上部は午前中だから大丈夫」 「じゃ、待ってる! 志波くーん」 女子チームをおいて サッサと教室に向かい始めてた志波を 結花が追いかける。 「志波君も来てくれるんだよね」 「ああ…」 なんてやり取りをしてるみたい。 後ろから見ると二人のバランスが良くて… うー… …いやいや、自分で勝手に落ち込まない! 気合だ! だって、とりあえず日曜は 一緒に野球部の応援できる。 一緒というのが嬉しいし、楽しみ。 大勢いるところで 貴大と何かあるとは思えないけど 「もし会う事になったら一緒に行ってやるから」 と言ってくれたのを ちゃんと覚えててくれて 本当にそうしてくれるのが嬉しい。 だけど、 実を言うと、 貴大が野球してるの 生で見るの久し振りだから それも少し楽しみだったりする。 そんな事言ったら 志波に変な顔されそうだ。 あんな事されたのにって。 でもねー、 自分と同じように夢に向かって 頑張ってる貴大のこと やっぱり尊敬してるんだよね。 頑張ってる人を見るのは好き。 自分もパワーをもらえて 頑張ろうって思えるから。 …志波はどうするのかな、野球… 「はるひ!誕生日おめでとう!」 「ーありがとう!」 「これプレゼント〜」 「わ!なになに?開けていい?」 「もちろん!」 袋を開いて中を覗きこんだはるひ。 赤くなった! 大成功! 「こ、これ、の手作りなん?」 「そう!はるちゃん&はりちゃん! 二人をフェルトでマスコット人形にしてみましたー!」 「めっちゃ可愛い! 嬉しい! ありがとな! か、鞄につけたらバレバレやろか?」 もー可愛いなあ、はるひ。 恋してますーってオーラ全開だよ。 私も誰かに「あの人が好きなのー!」って カミングアウトして あんなとこが良くって、とか こんな事があって、とか 誰かに聞いてほしいかも。 今度、はるひやあかりに話してみようかな。 二人には色々気付かせてもらったし。 Next→ Prev← 目次へ戻る |