35.体育祭前



キュピーン



ちゃん、目がギラギラ光ってるよ?」

「だって、あかり、体育祭だよ、体育祭!」

って去年もこうだったの?」

「去年よりすごいかも…」

「結花、あかり、いい?
 体育祭はねー、体育のお祭りでしょ?!
 そりゃーはじけるしかないでしょっ!!」





学活の時間。
出場種目を決めるために
教室内はアッチコッチ適当にグループ作って
ワイワイと盛り上がっている。

「立候補する人は名前を言ってくださーい」

学級委員の小野田だけが
前に立って甲高い声で叫んでいる。



競技種目のプリント。
見てるだけでワクワクが止まりませんっ!

どうしよー!
どれに出ようー!
全部出たーい!



「学年別クラス対抗リレー」
今年は去年のリレーメンバーが3人もいる!
津田、あかり、私。
それに志波を加えれば、これはもう1位確実でしょ。

「100m」
「1000m」
これは出ると。

「紅白対抗リレー」
これは多分学年代表に選ばれるはず。
去年は良い走り出来なかったからリベンジだー!

クスッ

そういえば、去年って練習が嫌だったんだよなー。
っていうか、練習じゃなくて志波が嫌いだったんだよね。
それが今では…うふふ。



他の競技は…



「借り物競争」



ふむふむ、まあ、定番競技って感じ。



「パン食い競争」
・・・今年もレアなパンが勢ぞろい。はずれパンに注意しろ!



ん?去年と同じ競技だけど…
何?この説明文?



「私、パン食い競争に出るの」

「海野さんも?私も私も。結構いいパン揃ってるよね〜」

「桐野さんも〜?今年の目玉なんだろうね、楽しみ!」



あとは…



?!



「二人三脚障害物競争」
・・・二人三脚で数々の障害を乗り越えろ!



な、なにこれー?!
ちょ、面白そう!!
どうしよう出たい!

相手が必要か…。
志波、一緒に…だめかなぁ…。
あ、寝てる。



「志波…最近前より寝るようになったよねぇ…
 結花、野球部の練習ってそんなにきついの?」

「志波君ちょっと頑張ってるみたいなんだよね」

「練習を?」



入部する前からトレーニングしてたから
そんなに体力が持たないって感じじゃ
ないと思ってたんだけど…。



「んー、練習っていうより…」

「なに、結花?」

「チームのメンバーとして認めてもらうこと、かな」

「え?」

「志波君、とっても中途半端な時期に入部したでしょ。
 普通4月に入部したら仮入部期間はその4月いっぱいなのね。
 それが、今回は特別に2週間。短いでしょ?」

「ああ、そうなんだ」

「それから、今の2年生はさ、
 1年の時に上級生にしごかれて
 辛い練習を耐えてきたメンバーなわけ。
 だから『ずるい』って思ってる人もチラホラ…」

「なるほど…」



途中から部活に入るって
結構大変な事なんだな…。



「それと…」

「それと?」

「志波君の中学の時の噂聞いた人が
 また問題を起こすんじゃないかって…
 だから迷惑だって、そういう人もいて…」

「そんな…」

「全員じゃないんだけどね。
 それで、認めてもらいたくって
 皆より早く来て準備したり
 片付けも積極的にやったり
 皆が面倒がる様なことをすすんでやったり
 頑張ってるの。
 …それで疲れてるんだと思う」

「そうだったんだ…」



私だって志波のこと誤解だって分かるまで
かなり時間かかったもんなぁ。
真咲先輩に教えてもらわなかったら
ずーっと大嫌いなままだったかもしれない。

野球部の人たちに真相を説明しても
言い訳に聞こえちゃうだろうから
部活に臨む態度で示すしかないんだろうな。

でも全員じゃないみたいだし、
帰りに誘ってくれる人もいたし、
そういう人にまず分かってもらって…。
そしたらその周り、その周りって
自然に広がっていくはずだよね。

なるべく野球部の人たちと一緒にいた方がいい。
一緒にいればきっかけはいくらでも生まれる。



部活後に一緒に帰りたい、
なんていう私のささやかな夢は
しばらく封印しよう。





「それにね、私が色々手伝うと、今度は変な噂立っちゃうし…」

「そりゃあそうだよ…」



当たり前だよー。
自分たちの可愛いマネージャーが
いきなりやってきた男に
あれこれ手を焼いたら
絶対反感買うでしょ。

それが一番の原因なんじゃ…?







話を元に戻しまして…

やっぱり出たい二人三脚障害物!



キラキラーン☆



ちゃん、目の輝きが増してきたね?」

「ホント、どうしたの?」

「あかり、結花、あたし、これ出る!」



すっくと立ち上がって志波のところへ。

出る、絶対に、あれに出る!



「志波ー、起きて起きてー!」



ゆっさゆっさ。



「……なんだ?」



あ、ホントに寝てたんだ。
機嫌悪…。
お疲れのところゴメンゴメンと思いつつ…



「これに一緒に出てほしいんだけど」

「…?」



まだ寝ぼけて焦点が合わないみたいだったけど
プリントを差し出す。



「面白そうでしょ?ね?お願い!!」

「二人三脚…と?おれが?」

「むうっ…身長が合わないのは分かってるけど
 こんな面白そうなの出たいじゃん!
 それに出るからには勝ちたい」



ふんっと腰に手を当てふんぞり返る私。
勝ち負けがあるものは全部勝たないと嫌!



「志波となら速く走れるし」

「………任せる…おやすみ」



おお!オッケーって事だよね、今の!
渋々だったとしても嬉しい!



「サンキュー!頑張ろうね!!」

「ああ…」



また机に突っ伏しちゃった志波が
ちょっとだけ横向いて
笑って返事してくれて
その笑顔にクラッ…。

パワー充填されました。





「時任先生、僕たちも赤組勝利のために頑張りましょう」

「はい?教師も何かやるんですか?」

「二人三脚の教師枠に出るんです」

「ええっ?!」

「ややっ、時任先生は走るの苦手、ピンポンですか?」

「ブ・ブーです…けど、教師も参加するとは思っていなかったのでビックリしました」

「そうでしたか。楽しみですねぇ、体育祭」

「そうですね。生徒たちもとっても楽しそう!」

「うん。青春です」

「青春ですねぇ。ところで、若王子先生は走るのは?」

「それは秘密です」

「大丈夫なんですかぁ?!」






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