41.初メール
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『To:志波 おめでとう! 志波のホームランに感動した』 一回戦の夜、何か言いたくて でも、電話する勇気はなくて。 だから、メールを書いてみた。 考えてみれば初めてだ。 志波にメール出すの。 活字がこんなに不便だと思ったのも初めて。 だって伝えたい気持ちをうまく言葉にできない。 だからたった2行だけ。 素っ気無いって思われるかも。 メール出してから5分………。 さっきからずっと携帯眺めてたんだけど返信は来ない。 今日はもう疲れて寝てるのかもしれない。 ちぇっ、あきらめよっと。 と思ってたら、30分後、返信が来た。 ドキドキする。 なんて書いてあるのかな? 私のメール短いって文句だったりして。 でも、でも、 初めてもらった志波からのメール。 緊張するーーー! 熱くなってジリジリする手で 携帯を開いて エイッと開封してみる。 あ……… 『サンキュー』 だって。 たった一言。 それだけー!って突っ込みを入れつつ 嬉しくて嬉しくて 胸がギューってなるよー! このメールは永久保存に決定!! それにしても、返信書くのに30分悩んだ、ってことはないよね? まさかね。 きっとお風呂でも入ってたんだ。 志波が1回戦で打ったホームランは 地区大会第一号だったらしく 翌日の新聞の地方欄には 小さいけれど名前が載った。 細かいこと嫌いな私は スクラップとかしたこと無いんだけど これだけは取っておきたいと思って ハサミでチョキチョキした。 この前新聞に入っていた 地区大会出場校の選手一覧。 それと一緒にクリアファイルにはさんだ。 地区大会第一号ホームラン、 二打席連続、 敬遠、 学校内では武勇伝があっという間に伝わったけど 「たまたま相手が弱すぎだっただけだろ」って 悪く言う人もいたみたい。 だけど、勝ち進んでいくうちにそんな声も聞こえなくなった。 夏休み前日。 終業式が終わって ホームルームも終わって 午後の部活までの時間を埋めるために あ、いや、ちがった、 友達のために ちょっと企画があるのだ。 あくまでも友達のため。 時間つぶしじゃないよ、うん。 「佐伯く〜ん、お誕生日おめでと〜」 「おめでとう〜佐伯く〜ん」 「佐伯く〜ん、私のも受け取って〜」 隣のクラスの前では 去年よりパワーアップした光景が 繰り広げられてる。 私とあかりはその様子を B組の前の廊下で見ていた。 「佐伯って、王子っていうほどカッコいいかなあ?」 「瑛くんはカッコいいよ………」 「も〜あかりったら〜いや〜ん!」 「う………ちゃんだって気になる人できたら、 その人だけカッコいいって思うようになるんだからっ」 「あー………そうかも………」 「あれ?もしかして誰かそういう人出来た?」 「え?あ、えっと、それより、アレどうする?」 「うーん、どうしよう?」 「あかりさん、こんにちは」 「あ、密ちゃん」 この黒髪ロングの人、どっかで見たことある。 誰だっけ? 「密ちゃん、今から部活?」 「そう。今日は野球部の応援なの」 そうそう、野球部は今日3回戦。 なんで陸上部あるんだろ? 野球部見に行きたいのに。 なんで学校全体で応援ってことにならないんだろ? 応援………? 「あ!吹奏楽部の!」 「ふふ、さん、よね?」 「なんで私の名前を?」 「あら、有名よ?体育祭のリレーとか二人三脚とか。うふふ」 「ええ!そうなの?あかりー?」 「うーん、そうかも。2年生ならほとんど知ってるかな」 「リレーの方はいいとしても………はぁ…… あの、私、、って知ってるんだよね、よろしくね」 「うふふ、私、水島密。よろしくね」 「えっと2年生?」 「やっぱり年上に見えちゃう?」 「うん。あ、でも、じゃあ水島って呼んでいい?」 「もちろん。水島でも密でもいいわよ」 呼び捨てにするのがもったいないくらい お姉さんの雰囲気の水島。 いいなぁ今日は野球部応援行くのかぁ……… 「あー!密ちゃんやー。ちゃんとあかりちゃんも、こんにちは〜」 「クリスくん、こんにちは」 「密ちゃん、これから球場行くん? ボクも行こうかなあ? ちゃんは志波クンの応援行かへんの?」 「午後は部活だから行けないの」 「サボったらあかんの?」 サボって行く? 考えたことなかった、そんなの。 でもいつか何かあったら「あの時サボったから」って後悔しそうだ。 志波だって嬉しくないかもしれない。 サボってまで来るなって思わないかな。 「部活は休めないよ」 「そうなん?じゃあボク、ちゃんの分も応援してくる」 「ありがと、お願いね!」 「ほんなら、また」 「私も行くわね」 クリスも行くのかぁ…。 いいなぁ……… 「おい!、あかり!」 「あ、針谷」 「おまえらおっせーよ!もう準備できてんぞ!」 「だって、アレ見てよ」 「はーん、よし、ココは俺に任せろ」 「じゃ、お願い!」 「おい、佐伯!」 「あ、やあ、針谷くん」 「やあ、じゃねえ!早くしろよ!」 「あ、あーそうだった。みんなごめんね。 今日は針谷くんと約束していたからそろそろ行かないと」 「えー!もう行っちゃうのー!」 「ハリーひどい!」 「夏休み会えないのにー!」 「ホントごめんね。じゃあ楽しい夏休みを!」 「「「いやーん!」」」 「サンキュー、針谷………まいった………」 「ああいうの、やめれば?そんな疲れんなら」 「ムリ」 「なんで?」 「今やめたら………なんでもない。とにかくムリ」 今日は佐伯の誕生日だから 仲良しグループでちょっとしたお祝い。 針谷がいつも使っている音楽室で サンドイッチやお菓子やジュースを持ち寄って ミニパーティー。 もう一度確認しておこう。 友達のため。 時間つぶしじゃない。 「じゃ、とりあえず、おめでとー」 「さん?とりあえずって何?」 「佐伯うるさい、おめでとって言ってるんだからありがとって言いなよ」 「そんなヤル気の無いお祝いにお礼言う必要ない」 「じゃ、佐伯はもう帰って」 「なんだよ、それ。俺の誕生日だろ?」 「まあまあまあまあ、 ほら、、シュークリームもあるから、おちつきぃや」 「はるひ〜愛してる〜〜〜!」 集まったのは、佐伯、針谷、はるひ、あかり。 ちょっと待て?私ってお邪魔? とか思いつつ 部活までの空いた時間を埋めるには丁度いいし あ、ちがった、お祝いお祝い、 イライラをぶつけるのに佐伯は丁度いいから じゃなかった、えっと、なんだ、ほら……… 深く考えないようにしよう………。 「それにしても志波くんはすごいよねぇ」 「おお、あっという間に有名人だよな。 オレより先にメジャーになりやがって」 「志波やん、今日も試合やって。な、?」 「うん」 「調子はどうなんだよ?」 「佐伯、なんで私に聞くの?」 「なんでって、さんがこの中では一番志波と仲いいだろ?」 「そう?でも私知らないよ、最近ほとんど話してないし」 「ええ?同じクラスにいるやんか」 「うん、でも大体寝てたし、志波」 「「「「あー」」」」 全員納得して頷くって どんだけ寝てる印象強いんだ、志波って。 「メールとかしてたんちゃうの?」 「あーアイツだめだめ。メール出しても返信なんてぜってーこねーぜ」 「あ、そうかも。志波くん、メール読めるけど、書くの苦手って言ってた」 「なんで海野さんがそんなこと知ってるのかな?」 「あ、えーっと、て…佐伯くん、それは…」 「夫婦喧嘩は二人だけでやってくーだーさーいー! それより、志波ってメール書けないの?」 らしいと言えばらしいかも。 妙に納得してしまう。 じゃあやっぱりあの一言は 30分悩んだのかなぁ? ププッ、ちょっと面白い。 「なーに思い出し笑いしてんだよ?!」 「う、うるさい、いいじゃん、針谷も帰れば?」 「ここの鍵、オレが持ってんの。が帰れ」 「はるひー、針谷があーいう事言うー!」 「あー………どないする、あかり?」 「うーん、どうしよ、て、佐伯くん?」 「あぁ、めんどくさい。 とりあえずシュークリームでも突っ込んどけ。 糖分が足りないんだろ」 「そうやな、えいっ!」 「むぐぐ………おいひ〜はふ〜」 明日から夏休み、か。 部活の時間一緒じゃないと 姿すら見れない日もあるんだろうな。 教室にいれば たとえ寝ていても 一緒の空間にいて それだけで嬉しかったのに。 長いなぁ………夏休み………。 メールといえば 貴大からもメールが来たんだよね。 『志波野球復帰したんだってな。 とりあえずおめでとう。 でも甲子園行くのは俺だから』 相変わらずの強気。 それだけ自信があるんだろうな。 自信がつくほどすごくがんばったんだろうけど そういう事、絶対表に出さない。 ある意味強い。 ま、単なる、意地っ張りの負けず嫌い。 なんだかんだで私に似てるんだ、貴大は。 夏休みに入って一週間。 学校側もさすがに野球部が注目を浴びている事を無視できなくなって 4回戦から全校で応援へ行くようになった。 部活よりも応援を優先させてくれて 私も試合を見ることができた。 4回戦で勝利した時、 嬉しかったけど また寂しくなって。 もっと素直に喜んでお祝いしてあげたいのにって また自己嫌悪して。 そして今日は準々決勝。 打線がつながらなかったり 守備でのちょっとしたミスがあったり そんな後悔が残るような敗戦。 3年生は泣いて ミスした部員も泣いて 結花も泣いて 志波は黙って立っていた。 地区大会決勝は7月末。 貴大はメールの言葉どおり甲子園出場を果たした。 1年生の時とは違って自分の力で勝ち取った地区大会優勝。 それはどんな気持ちだろう。 私も勝ってみたい。 自分の足で。 来年は絶対 「私だってがんばってる」 って言えるようになりたい。 Next→ Prev← 目次へ戻る |