43.花火



『じゃ、打ち合わせどおり、花火大会で!』

『………本当にやるのかぁ?』

『とにかく、志波を誘っておいてくださいよ。私は結花を誘うんで』

『うーん………』



年上のくせに積極性に欠ける真咲先輩をどうにか幸せにしたい。
妹分であるちゃんとしては兄貴を応援したいんですよ。
余計なお世話と言われそうだけど、ね!







作戦決行デー!花火大会!



花火大会へ行く、と言ったら
お母さんがせっせと浴衣の用意をしてくれて、
着付けの仕方も丁寧に教えてくれて………
まったく何考えてるんだか。

髪を結ってくれたり、
ちょっとお化粧してくれたり、
私よりノリノリだった。
デートじゃないのに。



待ち合わせ場所へいつも通り早めについて、
去年のこと思い出した。

去年はここで真咲先輩と待ち合わせて、
待ってる間に志波とあかりを見かけたんだっけ。
あの時はあかりに「やめといた方がいいぞぉ!」とか念じてたっけ。
それが今じゃ………フフッ。



「好きだな、思い出し笑い」

「フヘッ?」

「フヘッて、おまえ………ククッ」

「ちょっ、笑うなー!」



びっくりした。
なんで突然現れるかなぁ。
あ………


「志波、浴衣、似合うね」

「そうか?あ………」

「ん?んふふー!私も浴衣着てきちゃった!どう?どう?」

「あ?ああ………うん………」



感想なし?
ちぇっ。



「おー!勝己!!」

「真咲先輩!あー、浴衣だ!」

も浴衣か、いいな、二重マル!」



(気合入れてきましたね)

(そっちこそ)



目配せしてニッコリ笑いあう。
先輩のヤル気が持続するといいけど。



「みんな!遅くなってごめんなさい!」

「結花ー!全然大丈夫だよー!」

「本当に?」

「大丈夫だよねー?先輩?志波?」

「お、おう………」「ああ………」



ここで結花の浴衣をほめたりしたらポイントアップなのに。
見とれるだけで、何も言えないんだから、先輩ったら。
志波も無口だし………って、それはいつも通りか?

だけど見とれるのも分かる。
結花の浴衣姿は大人っぽいし、お化粧も似合ってる。



「結花きれいだねー。私の彼女になって?」

「フフフ、何言ってるのーもう!だって可愛いよ!」

「そっかなあ?それにしても、これ、絶対走れないよね。浴衣と下駄」

…浴衣の時にわざわざ走ることないでしょ?」

「それもそっか、あはは」

「そうだよー、うふふ」



「いいねいいねー。女子は手つないで仲良くて」

「真咲先輩もつなぎたいんですか?」

「ん?、つないでくれるのかあ?」



ギロッ(何言ってんですか!相手が違うでしょ!)

オロッ(いや、だってよー)

ギロッ(まったく、もう!)

オロッ(す…すまん)



「どーぞどーぞ、男子は男子チームで。
 最近は男同士が手つないでても、誰も何も言いませんよ」



本当につないだらすごい図だよなぁ。
タダでさえデッカイ二人が並んで歩いてるのは注目の的なのに。
さっきからすれ違う女子のほとんどが見てるよ?二人のこと。



「は、ははー………つなぐか、勝己?」

「絶対にイヤだ」

「なんだよー、ちっちゃい時は『にいちゃーん』とか言って手つないでたろ?」

「知らねぇ」

「冷てえなあ」

「クスクス………志波くん可愛いね!」

「桐野………」

「ああっ、笑ってごめんね!」



ギロッ(あの二人をいい雰囲気にしてどうするんですか!)

オロッ(そんなの知らねえよ!)



「結花、花火の前に縁日行くでしょ?」

「行くー!」

「何食べる?たこ焼き?お好み焼き?わたあめ?チョコバナナ?カキ氷?リンゴ飴?」

、そんなに食べるの?」

は色気より食い気だなあ、はははー」

「先輩うるさい!」

「こら、先輩に向かってうるさいとはなんだ!」

「先輩だからって偉そうにしないでください!」

「おれがいつ偉そうにした?!」

「今しましたー!」



「二人とも本当に仲良いよね。本当の兄妹みたい」

「………だな」



「お兄ちゃんだったらもっと妹に優しくしてください!」

「妹だったらもっとお兄ちゃんの言う事を聞け!」



「二人ともうるせぇ………」

「本当に兄妹喧嘩みたいだねぇ………」



ああ、ほら!
なんか志波と結花がセットになっちゃったじゃん!
あの二人が並ぶとなんかオトナーな雰囲気。
なんかジトーって見られてるよ。

うう、真咲先輩と言い合ってる場合じゃない………







縁日ってどこ見ても楽しい!

屋台の食べ物バンザイ!
それに
金魚すくい
ヨーヨーすくい
的当て
射的………

さて、やりますかねぇ!



「志波、輪投げ勝負しようよ」

「なんか欲しい景品あんのか?」

「ううん、勝負したいの!」

「おかしなヤツ………いいぞ、やるか」



「真咲先輩、結花!私と志波、ここで勝負してくから先行ってて」

「はぐれちゃわない?」



ごめんね、結花、それが目的でーす。



「大丈夫大丈夫、縁日は一本道だし、ね、先輩?」

「んー、まあ、大丈夫なんじゃねぇか?」

「でしょ?」

「んじゃ、先まわってるぞ。結花、行くか」

「はーい。じゃ、、志波くん、後でね!」



結花に手をフリフリしながら
ゴメンと言って頭を下げてます、心の中で。
先輩がんばれー!



「よかったのか?」

「え?あ、志波は結花達と一緒が良かった?」

「いや、オレはどっちでも」



どっちでもいいって顔してない。
やっぱり一緒に行きたかったかな?
さっき志波と結花が並んでたのは絵になったよなぁ………。



「輪投げ、なに賭けるんだ?」

「そうだなぁ………カキ氷?暑いし」

「よし、やるか」

「負けないよ!」



むぅ、志波は野球部だからコントロールいいんだろうなぁ。
ええいっ!



「おじさん!あれ!!!」

「あーお嬢さん、輪っかが下まで落ちないとダメなんだよねぇ」

「えー!せっかく引っ掛かったのにー」

「ククッ、負けないんじゃなかったのか?」

「う、うるさい!まだ4本あるもん!」

「がんばれ………」

「何そのヤル気の無い応援!エイッ!」

「こ、こら!投げる時に押すな」

「ハンデだよ、志波の方がリーチ長いんだから」

のせいで1回外した………」

「うふふ〜いい勝負だね!」

「………覚えてろ」

「ムリ!もう忘れた!あははは!」



結局1対0で負けちゃってキーキー怒ってたら
志波がゲットしたぬいぐるみを私にくれた。

なんでそれを狙ったのか聞いてみたら
取りやすそうだったからって言ってたけど
そうだったかなぁ?

本当は誰かへのお土産だったとか?
その代わりだったとしたら申し訳ないな。

私は志波からもらえて嬉しいんだけどね。







隣でカキ氷をバクバクと食べる志波。
カップいっぱいの氷があっという間に無くなっていく。
そんな姿を横からマジマジと見ていたら
急に志波がこっちを向いた。



「何見てる?」

「あ、えーっと、その………」

「ああ、抹茶食いたいのか?ほら」

「え?」



それ、志波がさっきまで食べてたスプーンだよね。
でもって、それに志波の抹茶カキ氷乗せて私の前に差し出してるって、
それって、えーっと???



「早くしないととける」

「ああ、じゃあ、いただきます………」



パクリ



冷たいはずのカキ氷が熱く感じるのは何故ー?!
味なんて分からないよ。



のはイチゴか?」

「私のはイチゴミルク。カキ氷といえば練乳!」

「練乳………」

「あの白くてトローっていうのがたまらないの!
 子供の頃は練乳だけ食べてお母さんによく怒られた」

「へぇ………」

「あ、志波も食べる?はい」

「ん、ああ、じゃあ」



パクリ



私のスプーンから志波がカキ氷食べた!
ハワワーー!!!
か、間接キス???
なんかいい雰囲気だよね、私達!



あ、そういえば………
真咲先輩、ちゃんといい雰囲気になってるかな?
また食べ物の話ばっかりしてるんじゃ………
それともからかったりして怒られてたり………
ありえる。



「大丈夫かなぁ、真咲先輩………」

「元春?」

「え?あ、先輩と結花どうしたかなぁって」

「ああ………そろそろ行かないと花火までに合流できないか」

「んーそうだねー」



うーん、しまった!
はぐれた後の事を何も考えてなかった。
とりあえずはぐれちゃえば2対2になれると思ったから
そこまでは考えてたんだけど………



「………は」

「ん?」

「元春とよく会うのか?」

「え?そんなことないけど、どうして?」

「いや………そろそろ行くか」



なに?今の?

それより志波はやっぱり結花達と合流したいのかな?
このままじゃ嫌かな………

しばらく先輩達に追いつこうと歩いてみたけど
輪投げとカキ氷で結構時間経ってたみたいで
なかなか見つからない。
それにしても下駄が歩きにくい。
あと鼻緒が………



「痛っ………」

「どうした?」

「鼻緒のとこ、むけちゃったみたいで………」

「悪ぃ、歩くの速かったか?」



縁日の通りから少し外れたところに座り
念のため持ってきた絆創膏を貼ったけど
歩き回るのはもう嫌だな………



「大丈夫か?」

「沢山歩くのはムリ、かな」

「そうか」

「あのー、先輩達に追いつくのはあきらめて、ここで花火見るってダメかな?」

はそれでいいのか?」

「志波がよければ」

「オレは………別に、かまわない」



足痛いけど結果的に良かったかも。
真咲先輩に一応電話して状況を話して
別々に花火を見ることにした。







帰りは「足痛いんだろ」と手をつないで家まで送ってくれた。
最初は「おんぶするか」って言われたけど
さすがにそれは恥ずかしいから辞退。

足は痛いけど、
つないでる手の方が気になって
ゆっくり歩いてくれるのが嬉しくて
ずーっとこのままがいいなぁって思った。

近くで見る花火の音が最高!とか、
何色の花火が一番良かったね、とか、
屋台のアレを食べ損ねた、とか、
色んな話をしながら歩いた。

海は来週行こうっていう約束もした。

喋りながら志波の顔を時々見上げて
すごく近くにいることにドキドキしたり
逆に見下ろされて「何見てる?」って言われて
慌てちゃったりして
好きなんだなぁってまた自覚した。



家についた後も
ずーっとほっぺが熱くって
ドキドキが全然止まらなかった。






Next→

Prev←

目次へ戻る