44.海
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『で、どうだったんですか?』 『うーん、いつも通りだったなぁ』 『なーんだ、せっかく二人っきりになったのに。 あ、次の約束はしたんですか?』 『いんや、してねぇ』 『なんでー?』 『ま、そのうち、な』 『そのうちねぇ………』 状況聞いてみようと先輩に電話してみれば 今ひとつ成果があがっていないようでガッカリ。 『はどうったんだ?』 『わたくし?ほほほ、次の約束しましたよ。ちゃんと』 と言っても前からの約束なんだけどね。 ちょっと先輩にはっぱをかけとかないと。 『なにー?妹に先を越された気分だ………』 『しっかり!お兄ちゃん! もうすぐ結花も合宿でバイト休んで会えないんでしょ!』 『だよなぁ………』 ホント、がんばって欲しいデス。 週明け、部活の時間帯が一緒で結花に会ったから、 花火の時のこと聞いてみた。 「結花、花火の時ごめんねー」 「ううん。の足はもう大丈夫なの?」 「うん。ちょっとマメできただけ。ほとんど治ったよ」 「そう、良かったね!」 「ところで結花、先輩と二人でどうだった?」 「え、先輩と?………あ、花火見てはしゃいでたよ」 「あぁ………先輩らしい………」 「うん。いつもよりテンションは高めだったかも。花火だから?」 「あはは………」 はは………先輩、もうちょっと押さないとダメみたいですよ。 年上のくせになんで押していけないんだろ? まったく! その日は甲子園も始まった日。 貴大はどうしてるかなぁなんて思っていたら 開会式の後にメールがきた。 緊張でもしてるのか?と思って慌ててメールを見てみたら 「中学の仲間集めて祝勝会よろしく!」 だって。 まだ、一回戦もやってないのに………。 一瞬でも心配して損した。 強気発言が出ているうちは大丈夫だね。 でも、いったいどこまで勝つつもりなんだろう? 「お待たせー!」 日曜日ですよ! 海ですよ! 着替えは素早く! 待たせないように!って思って 走って出て来たんだけど………? 「………」 「なに?なに見てるの?なんかヘン?」 「違う!………ヘンじゃない………全然」 えーっと今日の私は、ピンクのスポーティータイプのビキニ。 結構可愛いと思うんだけど? それじゃないとしたら……… 「あー!分かった!Tシャツ焼けでしょ! 結構気にしてるんだからスルーしてよね」 「…違う」 「違うの?じゃ、なに見てたの??」 「……目の毒」 「はい?」 「いや、何でもない」 「気になる………」 「それより、人だらけ………。見てるだけで暑い………」 「とりあえず泳ごうよ」 「そうだな」 「じゃあ、ブイのとこまで競争ね!」 「はぁはぁ………」 「オレの勝ちだ」 「うー、くやしい!手加減された!!」 「手加減?」 「だって途中まで並んで泳いでたじゃん」 「それは、足つったとき助けるためだ」 「え、あ、だ、大丈夫だよ、そんな………」 二人だけでブイにつかまってプカプカ浮いてるときに そんな優しいこと言われたら赤面しちゃうじゃん。 「ここまで来るとあんまり人がいないね」 「だな」 「ずーっと二人でここにいよっか?」 「なっ………それはまずいだろ」 「なんで?疲れるまでここで遊ぼうよ?すいてるし」 「ハァ………そういう意味か」 「ん?どういう意味?」 「いや………」 「ヘンなの。ま、いっか。じゃ、ちゃん潜りまーす!」 ゴーグルして潜れば目の前に志波の足。 太くてつかみにくそうな足だなぁ。 ま、いっか。 えいっ! 水の中から思いっきり引っ張った。 あまり威力がなかったけど それでも水の中に沈んできた志波。 わ、なんか睨んでる! 逃げよう! 「ぷはーっ!………うわっ!ブクブク」 距離をとって海面に顔をあげた瞬間 足を引っ張られた。 うー、仕返しされた。 睨み返して攻撃態勢をとる。 志波のニヤリと笑った顔が自分より下に見えたから 浮き上がれないように頭を押さえつけた。 わはは、ざまーみろ! って思ったら両手をつかまれて 頭から剥がされてしまった。 うー力では負ける、悔しいなぁ。 よしっ。 志波が浮上するのに合わせて 私も水面に顔を出した。 「………あれ?志波そこにいたの?」 「…?どうした?」 「じゃあ、今、私の足をつかんでるのは………?」 「…甘い。そんな手にはビビらない」 「えーっ!ちぇーっ!つまんないの!えいっ!」 バシャバシャと水をかけまくったら 「うわっ」ってビックリしてたから成功! で、ザバザバ泳いで逃げると また後から追われて足つかまれて 足つかまれたまま手だけ必死にクロールしてたら 「ははは!」と大笑いされて 確かに自分おかしいかもって思って ひっくり返ってプカプカ浮きながら笑っちゃった。 「あははは!………はー、喉渇いた」 「一回戻るか」 「オッケー。じゃ、競争。ヨーイドン!」 フライングだろ、なんて言ってたけど そんなルールは遊びには無いのだー! ビーチでジュースを買って休憩。 って、志波は炭酸なのに一気に飲んじゃって 私が飲み終わるのを待ってたみたい。 私は飲みながら志波の気になる部分をジーッと見てた。 「何見てる?」 「ん?いいなぁ、筋肉、と思って」 「は?」 「腹筋割れてるし、胸筋も、上腕二頭筋も、腿とかふくらはぎとかも羨ましい」 「だって十分引き締まってるだろ?」 「んーそうだけど、やっぱり男子と女子だと違うなぁって思って」 「まあ………それは仕方ないことじゃねぇか?」 「ふぅ、だよね。………ね、ちょっと触らせてよ?」 「はぁ?!」 「腹筋、力入れてよ」 「やめろ………あ、の腹筋も触らせてくれるならいいぞ」 「ん?はい、どうぞ、こんなお腹でよければ」 「っ………!冗談だ!………勘弁してくれ………ハァ」 なんなのー、ちょっと触らせてくれたっていいのに。 しょうがないから筋トレ方法だけ後で聞こうっと。 その後、もう1回泳ぎに行ったら お昼を大分過ぎてしまって 空腹でフラフラしてきた。 「お腹すいた…」 「オレも」 「じゃ、美味しそうなお店探しに行こう」 並んでる海の家を横目に見ながら歩いたんだけど 混んでいたりピンとくるのが無かったりで、 結構はずれの方まで来ちゃった。 「あれ?」 あのお店の前にいるのって…… タタタッと階段を登って駆け寄ってみた。 「やっぱりー!あかり!!」 「え?あ!ちゃん?!」 「海野、その格好………」 「志波くんも?!あ、これは、その………」 「こら!あかり!いつまでゴミ片付けて………げっ!」 「げって………あー!佐伯?!」 「………」 「あれ?佐伯だよね?ねえねえ、あかり???」 「えーっと………」 『お兄さん!オーダーお願いします!』 「はぁい!ただいま!………あかり、そいつらとりあえずご案内しとけ!」 「はい、瑛くん。………えーっと二人ともとりあえず入って?」 二人がアルバイトしているお店なのかと思ったら どう見ても佐伯が仕切っているようで これはいったいどういう事?って 志波と顔を見合わせていた。 だってさー、あの二人、水着にエプロンだよ! 水着だけならビーチにいっぱいいるから違和感無いけど エプロンって?! とりあえずお腹もすいてたし お勧めはトロピカル焼きそばと聞いたので 志波と二人で遅めの昼食をとった。 友達サービス(?)なのか、かなり大盛。 志波のは完全に二人前。 ラッキー!とちょっと浮かれてしまった。 食べた後は、忙しそうだから サッサと出ようとしたんだけど あかりに案内されてキッチンにつれてこられた。 「あ、佐伯、ごちそうさま!おいしかったよ」 「うまかった、サンキュ」 「そうか。食べたんだな、二人とも」 「うん。残さず、全部!」 「よし!じゃ、これがので、これが志波のな」 「え?」「は?」 手渡されたのは佐伯達とおそろいのエプロンとバンダナ。 「メシ代をタダにしてやるから働け」 「えっ、ホントに?」 「あと1時間もすればピークが終わるから、それまで頼むぞ!」 「おい、佐伯………」 あれ?なんで志波は佐伯を睨むんだろう? こっちも見たりしてコワッ。 それにしても………うぷぷっ、面白そう!! いそいそとエプロンとバンダナを身につけてみる。 うん、なんかいい感じじゃない?! 「どうどう?あかり?」 「似合うよ。けど、ちゃん、恥ずかしくないの?」 「んー?なんか面白そうだし、やってみたい!」 「あはは、ちゃんらしいねぇ」 あ、でも、今日って志波と遊びに来たんだっけ。 私が面白そうだからってダメかなぁ………。 「えっと、どうする?志波?」 と聞いても真っ赤になって 眉間に皺を寄せてプイッと横向いちゃって不機嫌だから やっぱりダメかな、やめておこうかなぁって思ったら 「ダメだ………って言ってもはやりたそうだな」 「え、えへへ、分かる?」 「はぁ………1時間でいいんだな、佐伯」 意外にも折れてくれた。 よーっし!やるぞー! お店の混雑のピークが終わってお手伝いも終了。 今度はトロピカルパフェを食べさせてもらっている。 「今日さ、とりあえず、サンキュー」 「いいよ、面白かったし。 それにお昼もコレも食べさせてもらって。 ね、志波?」 「ああ………」 「それでさ、えーっと、俺達がここで働いてることなんだけど」 「誰にも言わなければいいんでしょ?」 「な、なんで分かった?」 「なんとなく? ってゆーか、あかりが佐伯と働いてるって 友達の私に言わないのは隠してたって事でしょ?」 「ああ、そっか。………のくせに鋭いな」 「むっ!なんか言った?!」 そんな感じで 私と志波は珊瑚礁(という名前のお店だった)を後にし、 最初に着替えた海の家の近くに戻って もうひと泳ぎしてから家路に着いた。 「そういえば、今日志波に何もおごったりしてないけど、 『言う事きく』ってやつはクリアしたの?」 「ん?ああ、サンキュ、今日一日。 を誘って正解だった、やっぱり」 「私も楽しかったよ」 「疲れなかったか?」 「全然大丈夫!」 「オレも。まだいけるな。全然」 また誘ってくれないかな? 私から誘ってもいいのかな? キッカケになるような事がないとムリなのかな……… 「明日から合宿だねー」 「そうだな」 「お互いがんばろうね」 「ああ。寝坊すんなよ」 「むーっ!そっちこそ!」 「ククッ………ほんとに大丈夫か?」 「ふーんだ!」 もう家の前。 楽しい時間はあっという間。 「送ってくれてありがとう」 「いや………今日は早めに布団に入れよ。じゃあ」 終わっちゃった。 楽しい一日が。 すごく志波に近づけたような気もするけど でも次の約束はなんにもなくて……… 昨日までは今日の事が張り合いになって すごく充実してたんだけどなぁ……… ま、言っても始まらない! 誘われないのなら わ、わ、私から……… いつか、必ず……… がんばる………んじゃないかな 多分、きっと。 Next→ Prev← 目次へ戻る |