45.合宿
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合宿って普段の練習より好き。 朝から晩まで大好きな部活漬けになれるんだもん。 確かに練習はきつくなるけど それでも他の事考えずに没頭できるのは楽しい。 それに自宅以外のところに仲間と一緒にお泊りってのがワクワクする。 反抗期というわけじゃなくて 親と離れるのはちょっと冒険気分だもんね。 ま、顧問の先生いるし、遊びじゃないんだけど。 はね学の合宿所ははばたき山の中にある。 陸上部の他にもいくつかの部が合宿してて、 今年は野球部も同じ期間に合宿してる。 去年も確か野球部が一緒だったけど 前と違うのは野球部に志波がいるということ。 陸上と野球のグランドは別で 学校のように練習をコッソリ見るってのは出来ないんだけどね。 同じところに泊まるんだなぁと思うと それだけでちょっとドキドキする。 別に何もないのに。 陸上部の付き添いは顧問の若王子先生と時ちゃん先生。 時ちゃん先生は1学期の途中から部活に来てくれるようになった。 夏休みに入ってからも欠かさず来てくれているんだけど 少し元気が無いみたい? それと夏休みに入ってからおかしな人がもう一人……… 「荷物を整理した後、12時から昼食。 休憩後、午後2時から5時まで練習。 7時から夕食、その後ミーティング。 明日の予定はそこで発表します。 その後、順次入浴して就寝してください。 時任先生、女子の部屋割りはお願いしますね。 では、解散です」 なんか若王子先生がやけにテキパキしてるんだよね。 淡々と物事を進めるというか、こなすというか。 突っ込みどころがないというか………。 時ちゃん先生に対しても事務的な事を話すだけだし。 もしかして喧嘩してるのかな、この二人。 若王子先生がボケて 時ちゃん先生が突っ込むっていうのが 見られなくてつまらないんだよなぁ。 というわけで 午後の練習の途中で時ちゃん先生に話を聞いてみた。 そしたらやっぱり思ったとおり。 でも若王子先生の方が一方的にむくれてるらしい。 時ちゃん先生がかわいそうだから あんまり長引くようだったら なんとかしてあげたいかも。 夕食の時間に食堂で野球部と一緒になった。 それぞれの部で食べるから本当に姿を見るだけなんだけど 顔を見れるというのは嬉しいなぁ。 わだかまり、消えたのかな? 他の部員とも笑って喋ってる。 前は見れるだけで嬉しいって 満足していたのに今はちょっと違う。 昨日海に行って、 先週は花火に行って、 すごく近づいたような気がするから 今のこの見てるだけの状態が物足りなく思う。 もっと近くで話をしたい。 私、最近欲張りになってる。 このままで良いと思ってたのに みんなでワイワイ楽しければ良いと思ってたのに それだけじゃヤダって思う時がある。 「8時からミーティング始めますので食堂に集合してください」 若王子先生の声にハッと我に返った。 そうだった………合宿中に考えてもどうしようも無いことだった。 しっかりしなきゃ。 「明日は6時起床、 6時15分から30分の散歩。 7時から朝食、片付け後、8時半にグランドに集合して ストレッチを開始してください。」 テキパキと説明を進める若王子先生。 たまにこうなら誉めてあげるけど いつもだとやっぱり不気味………。 「その後は……… ジャジャーン! はね学陸上部ミニリンピックを開催しまーす!」 「えー?」「なんですかそれ?」 「ミニ・オリンピック、略してミニリンピックです。 男女一緒で自分の専門種目以外も全部出場するんですよ」 『オ』を略しただけじゃん…。 でもちょっといいかも。この企画。 陸上部は3年生が引退したから 男女合わせても15人位しかいない。 ストレッチ等の共通の練習は全員一緒にやるけど それ以外は種目別に練習するから 全員で同じ種目を競うのは 面白いかもしれない。 合宿2日目。 はね学陸上部ミニリンピックは 準備やトライアルをしながら 各競技を進めていった。 短距離、投てき、ハイジャンプ、中距離……… 途中、若王子先生が、 槍投げで的当てしてビックリしたり ハイジャンプで腰痛めて中断して 早めの昼食・休憩を取ったりと 若干のサプライズとハプニングはあったものの なかなか楽しく一日が過ぎていこうとしている。 最後の長距離はトラックじゃなくて ジョギング用に整備されたコース。 陸上グランドの脇からスタートし、 他のグランドの周りや林を抜けて、 グルッと周ってくる。 野球グランドの横を走る時に志波が見れるかも、 なんてスタート前は思っていたんだけど、 走り始めたら一人ぐらい男子を抜かしたいなんて 結構マジになってしまってよそ見する余裕は無かった。 結花の「がんばれ!ー!」って声は聞こえたけど それに応える余裕も無い。ごめんね。 「女子の部の優勝はさんです。イエーイ!」 夜のミーティングで成績発表。 部内だけど優勝は嬉しいなぁ。 「金メダルは無いけれど、先生お手製の賞品があります」 と全員に渡されたのは………飴? 頭脳飴? 「これは体力飴です」 「体力………食べてもドーピングにならないですよね?」 「その辺りはきっちり計算して………」 「思いっきりヤバそうじゃないですか!」 「冗談です!本当はただの飴です。大丈夫です」 「本当ですか………?」 「ううぅ………信じてください」 「ま、今日は疲れたからなんでもいっか。いただきます」 うん、甘い。 いつもやらない競技と勝負の緊張感で 今日は結構疲れたみたい。 そういう意味では体力回復になってるかもね、この飴。 3日目からは普通の合宿メニューに戻り 毎日ヘトヘトになるまでたっぷり練習した。 で、明日で合宿もお終い。 その夜のミーティングの後。 「さん、先生とちょっとお散歩しませんか?」 「えー?若王子先生とー?」 「そんなに嫌がらなくても………ちょっとお話したいんですけど」 「話ですか?まあ、いっか。行きますか?」 宿舎の玄関から出たら野球部が何人か素振りしてた。 志波も。 最後までがんばってるなぁ。 「やや、みんながんばってますねぇ」 「若王子先生」 「志波くん、自主トレですか?」 「はい。先生とは………」 「先生、さんとデートです」 「は?」 「先生!誰がデートですか!話があるから散歩しよって言ったの先生でしょ?!」 デートってなに考えてるの、若王子先生ってば? 志波があきれて見てるじゃん。 タダでさえ、夜の散歩なんてヘンに思われそうなのに! 「そうでした。お散歩です」 「散歩………」 「志波くんも一緒に来ますか?」 「いえ、まだ素振りが残ってるので………」 「そうですか………それじゃ、さん行きましょうか?」 「はーい」 「じゃ、志波くん、トレーニングがんばってください」 「はい………」 ………眠れなくなってしまった。 夜中の食堂の一角だけ電気をつけて 椅子の上に体育座りして考える。 眠れないのは若王子先生の『話』のせい。 別に悪い話というわけではないけど 考えてもみなかった事だから。 でも考えないといけない事を言われてしまった。 それも出来るだけ早く。 どうしよう? 「………眠れないのか?」 び、びっくりした………。 考えることに没頭してたから人が来てるのに気付かなかった。 「うん、ちょっと………志波も?」 「ああ………」 志波は台所のでっかいヤカンから 麦茶をコップに注いで 私の正面の椅子に座った。 「ほら」 「ありがと………あ、初合宿、どうだった?」 「さすがに疲れたな。は?」 「私?私はまだ大丈夫!」 「嘘つけ。負けず嫌い」 「ばれたか………疲れたよ、私も」 小声でヒソヒソ話すのがなんだか秘密っぽくて楽しい。 合宿がんばったから神様からのご褒美?なんてね。 「………で、なにかあったのか?」 「あー………さっき、若王子先生に言われたんだけど」 「散歩で?」 「そう。うーん………」 「言いにくいこと、なのか?」 「ううん、自分で決めなきゃいけないことだから志波に話すのはどうかな、って思って」 「聞きたい。決めるのはが決めればいいんだろ?」 「うーん、そっか。あのね、長距離に転向してみないかって」 「転向?」 「ね。ビックリでしょう?私もビックリして眠れなくなっちゃった」 「そうか………で、どうするんだ?」 「まだ決められないよ。じっくり考えてみる、できるだけ早めに」 「行き詰ったら相談にのるぞ」 「ありがと」 「若王子先生の言うことなら間違いはないと思うけどな」 「そうだね。そういう所は割としっかりしてるよね、先生って」 「だな」 「そういえば、志波はなんで眠れないの?」 「オレのは解決したから」 「え?そうなの?いつ?」 「さっき………」 さっきって、いつ? 眠れなくてここに来たのに もう解決したの? 「なんかずるいなぁ。私も志波の相談にのりたかった」 「オレのは、くだらねぇことだから」 「眠れないのにくだらないの?」 「………もういいだろ、部屋戻るぞ?」 「うーん」 なんか納得いかないけど、仕方ないか。 「おやすみ」って言うのがちょっと照れくさくって、 言われるのが嬉しい、そんな合宿最後の夜。 合宿から帰った次の日は日曜日。 久し振りにノンビリ寝坊してたら携帯が鳴って 午後からはるひとあかりがやってきた。 「ちょっと、〜、あかりから聞いたで!」 「あ、あはは〜、何を言ったのかな?あかり」 「えへへ。だって良い事は言ってもいいかなぁって思って」 「えへへ、って。もう!あー、それより、ほら、宿題やっちゃおうよ、ね?」 「そんなのは後でいいやん!話が先や!」 「えーっ、だって『宿題しに来る』って言ってたのに」 「宿題なんて後!さあ、、白状せい!しないとシュークリームやらん!」 「ううーっ………何から言えば良いのでしょうか、はるひ様?」 「ずばり、の好きな人は?」 「ずばり過ぎる………」 「じゃ、シュークリームは没収ということで」 「わーん!………志波です」 「「きゃー!!!言ったー!!!」」 って、はるひが言わせたんじゃん! あかりも一緒になって喜んじゃって。 あーん、なに、これ、いじめ? 「やっぱり予想通りやったなー、な、あかり?」 「ね、はるひちゃん」 「予想ってそんなのいつしてたの?」 「いつって、正月明けにに相談された時やん」 「そうだよ、覚えてないの?ちゃん?」 「そ、そんなに前から?」 「「そうだよねー!!!」」 はあ、そうですか………。 なんで私より早く気付くの? 「ねえねえ、もう付き合ってるの?」 「あかりこそどうなのよー?」 「今日はちゃんに聞く日なの。ね?はるひちゃん」 「そうや!うちらの本命は知ってたくせに全然報告しなかったへの罰や!」 「えーっ!なんかずるい………」 「で、付き合ってるん?」 「ない、です」 「「なんだー………」」 あーーー、もう二人でハモらないでよー! ガッカリの二乗ですか………。 「じゃあ、ちゃん、いつ自覚したの?」 「そうやそうや、いつから隠してたん?」 「えーっとぉ………春休みくらい?」 「そんなに前から?!」 「花見んときは?」 「自覚後、でした」 「「えー!!!」」 気付かなかった、とか、 何故すぐ言わなかったのか、とか、 なんか責められるだけ責められて 合宿疲れよりもグッタリしてしまったよ………。 あー、でも、これで友達と恋ばな出来るんだなぁと思うと ちょっと楽しいかもしれない。 何かあったら相談にのれるし。 心強い味方が出来て嬉しい。 「さ、もう宿題やっちゃおうよ、ね?」 「まだや!最初からじっくり説明してもらわんと」 「そうだよ、ちゃん、ちゃんと話聞かせてよ、ね?」 えーっと、味方………だよね? 今日は何時まで答弁しないといけないのでしょうか………。 はうう……… Next→ Prev← 目次へ戻る |