46.お化け屋敷
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「ー!助けてー!!」 「わわっ!結花、どうしたの?」 「お願い!助けて、ね!」 「だから、どうしたの???」 月曜日部活に行ったら 部室棟の前でいきなり結花に泣きつかれた。 かなりオロオロしてて本気で焦ってる? あと一週間ちょっとで夏休みも終わり。 まだ午前も早い時間だというのに セミ軍団のジージーミンミンツクツクが騒々しい。 「ホントにどうしたの?」 「あのね、真咲先輩に遊園地誘われたの。今度の日曜日」 おー! 先輩やればできるじゃん! よかったよかった! ん?でも……… 「それと『助けてー』にどんな関係があるの?」 「あのね、一緒に来て?」 「はい?」 せっかく先輩が結花を誘えたのに そこで私がお邪魔したらいつもと同じじゃん。 っていうか絶対先輩に恨まれるし………。 「えーっと、誘われたのは結花だけなんだから、 二人で行った方がいいんじゃないかなぁ?」 「そうなんだけど………」 「あのー、もしかして先輩と二人で行くの嫌なの?」 「嫌じゃないよ。でも………」 「でも?」 「………怖いの」 「なにが?」 「………お化け屋敷が怖いのっ!!」 「はい???」 暗くて狭いところがダメで無理なのって それを言うだけですでに涙目になっている結花。 そういえばお城に行った時、 針谷にニガコクは絶対無理って言ってたよなぁ。 それがコレだったのか。 「じゃあ、そのこと先輩に言えば入らなくて済むんじゃない?」 「それがね、先輩に誘われた時………」 『結花、遊園地に行ってみねーか? お、そーか、大丈夫か! いやー、夏休みの遊園地は楽しいぞー。 なんといってもアレだ。 アレは絶対はずせねぇからな。 アレか?夏でアレと言えばコレしかねぇだろ。 はははー!』 と、真咲先輩の言い方を真似して 両手をお化けの格好にしている結花が なんとも気の毒になってしまった。 先輩のアホー! 自分がホラー好きだからって 勝手に盛り上がってどうすんだ! 「先輩、お化け屋敷、すごく楽しみにしてるんだもん」 「うーん、でも私が行ったら先輩怒るかも」 「どうして?」 「どうしてって、それは、まあ、色々と………」 「怒るわけないよ。 いつも一緒に遊びに行ってるんだし。 ね!お願い!私を助けて!」 「うーん………」 「先輩には私から言うし、志波君も誘っておくから、ね!」 「うっ………」 志波と一緒に行けるのは嬉しいけど……… 「〜、お願い〜!」 「うぅぅー………、分かったよ、仕方ないなぁ」 あーあ、先輩に恨まれるんだろうな……… その週の半ば。 『−−−県代表第一高校、優勝です! 2年生ピッチャー、鈴木、よく投げました! 涙です!キャッチャーに飛びついて泣いています! 熱い熱い戦いが今ここに幕を−−−』 テレビから流れる実況を聞きながら 汗かいてるのに握り締めたままのグーの手で グイッと涙をぬぐった。 貴大は夢を一つかなえた。 心から祝福したい。 私だって! 来年こそは! 転向のこと、早く考えなきゃ。 「真咲先輩、おはようございます」 「おー、おはようさん」 「あは、あはは」 「ははは」 微妙な空気でお迎えにきてくれた先輩号。 もう、笑うしかないというか、なんというか。 「あ、志波も、おはよう」 「おはよ」 「なんで後ろに座ってるの?狭いのに」 「…」 「勝己のヤツ、どーしても助手席はイヤなんだと」 「ふーん」 「結花迎えに行くからも後ろ乗れ」 「はーい」 狭いでしょ?とか言いながらも 並んで座れるのがちょっと…かなり嬉しい。 えへへ。 「結花………なんで最初に無理だって言わなかった?」 「だって先輩が楽しみにしてたから………」 お化け屋敷の前で結花の告白タイム。 告白といっても『苦手』のことだけど。 「だから、私が呼ばれたんですよ、先輩」 「そうだったのかぁ、楽しいのになぁ」 「それには激しく同意しますけど、 ムリな人もいるってことですよ」 「ごめんなさい、先輩」 「いや、気にすんな。 じゃ、勝己、、行くか?」 「オレはいい」 「へ?なんだ、勝己、怖いのか?」 「桐野、一人で待たせるのか?」 「あー………そうだよなぁ………」 「と元春で行ってくればいい」 「志波くん、私、一人で待ってるから行ってきていいよ、ね」 「いい………」 ………なんか、優しいなぁ、結花に。 そりゃ一人で待たせるのはかわいそうだけど。 でも、むぅぅ………。 「じゃ、先輩、行こ!」 「あ?ああ、行くか」 友達だから優しくして当たり前。 私だって優しくされたことある。 でも、なんか、やだ。 そんなモヤモヤをぶんぶん振り払いながら お化け屋敷に突進。 中は冷房がきいてて涼しい。 汗がひいていいかも。 それにしても……… 「暗いですねぇ、先輩」 「ん?この辺りは明かりが点いてて見えるだろ?」 「そうじゃなくて、先輩が暗い」 「あー………」 「せっかく結花と二人でデートのはずだったのにね」 「ははは………はぁ………」 「まあまあ、そう落ち込まないで!せっかくだから楽しみましょ!」 「そうだった。この夏最後のお化け屋敷!」 「ホラホラ!アレ見て先輩!リアル〜!」 「おー!この壁触ってみろ、目玉がいっぱいだぞ」 「あ、ほら、あそこにお化け隠れてますよ」 「よし、逆に脅かすぞ」 「「わっ!」」 『ギャー!!!』 「「あはははは」」 「やばい、怒って追いかけてくるぞ、逃げろ!」 「ホントだ!あはは」 「「あははははは!!!」」 大笑いで出口から飛び出したら 志波と結花から白い目で見られた。 お化け屋敷から大笑いで出てきたら誰でもそう思うか。 志波と結花はジュース飲んで並んで座ってた。 何話してたのかなぁ。 気になる。 「お待たせー、お二人さん!」 「おかえりなさい!どうだった? 二人とも笑ってるけど怖くなかったの?」 「怖かったよ。でも、面白かった!ね、先輩!」 「おお。夏はやっぱりコレだなー」 「あとは結花が乗りたいの決めなよ」 「そーだなー、待たせちまったし」 「………オレも待った」 「志波、乗りたいのあるの?」 「ゴーカート、か、ジェットコースター」 「お、いいな。じゃ、順番に行くか? いいか?結花、?」 「「いいでーす」」 「は誰と乗りたい?」 「えーっと………」 「あのね、私、志波くんと乗ろうかな」 「え?」 「、先輩といると楽しそうだし、ね」 「あ………」 志波と乗りたいって言いそびれた。 「志波くん、一緒に乗ってくれる?」 結花の一言に真咲先輩が固まる。 「ピキッ」って音が聞こえてきそう。 志波はと言えば、チラッとこっちを見た後、 「いいぞ」と答えてた。 これが漫画なら、 きっと私からも先輩からも 『ガーン』って効果音が出てるんだろうな。 それとチラッと見られたのが比べられたみたいでショックだぁ……… 私も志波と乗りたい……… 「ナイトパレードの前に、も一つ乗れるな」 「結花、何か乗りたいのある?」 「うん……」 と言って結花が見上げる先は観覧車。 「あのね、夕陽とかきれいかなって思ったんだけど、志波くん無理だもんね」 「「確かに」」 「………」 「あ、じゃあさ、今度は私と志波が待ってるから、 先輩と結花行ってきなよ、ね?」 「でも………」 「お化け屋敷は先輩のわがままきいたんだから、 今度は結花のわがままきいてもいいじゃん、ね?」 「そうだな。行くか、結花」 「はい。………ごめんね、志波くん」 よし! グッジョブ、私! 真咲先輩がんばれ〜と手をふってお見送り。 夕焼けの中の観覧車か。 恋人同士だったらラブラブだろうなぁ。 あ、でも、相手が志波だったらそれどころじゃないか。 フフッ。 「………」 「ん?」 「おまえも乗りたいんじゃないか?」 「うん…………あ、ううん」 「………行こう」 「え?無理しなくていいよ。今日はニガコクじゃないんだし」 「行くぞ」 「ちょっと!」 先に並んでた先輩たちも驚いてる。 勢いに任せて列に並び、 自らゴンドラに乗り込む志波。 どうしちゃったんだろう? でも、勢いがあったのは乗り込むところまでで ゴンドラがフワリと地上から離れた辺りから だんだんテンションも志波の頭も下がってきた。 でも私は嬉しい! 今日やっと志波と一緒に乗れたから。 顔がニコニコしちゃう。 「楽しそうだな………」 頬杖つきながら呆れたような表情の志波。 「うん、楽しい!」 「…なら、よかった」 「よかった?」 「ああ………さっきまでつまんなさそうな顔してた」 え?あー、しまった。 顔に出ちゃってたのかな。 「元春となんかあったのか?」 「なんにもない。ちょっと考え事したり、なーんて、はは」 「そうか………」 「そうそう。それに今はちゃんと楽しいし!」 「そんなにおかしいか、オレが怖がるのが」 「違うよ、そうじゃなくて………」 ガタン 「あ、止まった。なんだろ?」 すごくゆっくり動く観覧車だけど 停止する時はビックリするぐらい揺れる。 とたんに志波が青ざめていく。 両手で頭を抱えて………。 「大丈夫?………じゃないよね」 どうしようと思うよりも先に体が動いた。 立ち上がって移動するときにゴンドラが揺れちゃって 志波はビクッとしてたけど 隣に座ったらこっちを向いた。 助けを求める子犬の目………って前も思ったよなぁ。 フフッって思い出し笑いしてしまったら ちょっとムッとしたみたいだけど 反撃する元気は無いみたい。 「よいしょ」 志波のおでこが私の肩に乗るように 頭を引き寄せてみた。 抵抗する力も無いのかな? されるがままになってる。 頭をなでて 「大丈夫大丈夫」 って落ち着かせるために 小さい声で囁いてあげた。 なんか、小さい子供をあやしてるみたい。 観覧車はすぐに動き出したけど この体勢が心地よくて 志波もおとなしかったし 下につくまでナデナデしちゃった。 先に降りていた真咲先輩と結花の所へ……… 「って、なんで結花泣いてるの???」 「あ、………」 「結花、先輩になんかされたの?!」 「違う違う。何でもないの」 「ホントに?」 「うん、もう大丈夫だから。パレード見に行こ?」 何があったのかなぁ……… それともホントになんでもないことなのかな。 気になるけど結花がいつか話してくれるのを待つか。 そんな感じで長い長い遊園地の一日は終わったのでした。マル。 Next→ Prev← 目次へ戻る |