47.スタート
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9月1日!2学期だー! 「おはようございます!」 「おはようございます!」 「おっはよー!氷上も千代美もがんばってるね〜!」 「2学期は色々と行事も多いからね。気を引き締めなければ」 「そうですね、氷上君。私も協力します」 「ふたりとも真っ白だけど夏休みなにしてたの?」 「夏期講習に行ってました」 「有意義な夏休みだったよ」 「へぇ、夏期講習で有意義か……はは」 まだ2年生なのに、がんばるな〜。 *** 「藤堂〜!久し振り!元気だった?」 「ああ、あんたか。元気に決まってんだろ?」 「夏休み何してたの?」 「バイトと夏期講習だね」 「夏期講習?藤堂が?」 「フッ………お勉強じゃないよ。これさ」 って見せてくれたのはピカピカのネイルアート。 「本格的に勉強したくなってね。バイト代つぎこんできた」 「わぁ!きれい!」 「今度、練習させてくれよ」 「喜んで!」 「竜子、さん、お久し振り」 「あ、水島!………えっと、竜子って藤堂のこと?」 「そうよ?」 「友達?二人が?」 「うふふ………ね、竜子」 「ああ」 「なんか意外〜」 *** 「!」 「ちゃん!」 「はるひ、あかり!」 「、あれから何か進展したん?」 「いきなりだね………えーっと、遊園地、行った」 「遊園地でデート?!」 「二人だけじゃなかったけど」 「なんや〜」 「でもお出かけしたんだ。いい感じだよね!」 「うーん、どうだろ?」 「どうだろって、………」 「まあまあ、はるひちゃん。もうすぐ修学旅行だし」 「そうや!自由行動、ちゃんと誘うんやで!」 「え?」 「え?じゃないよー、ちゃん」 「だって、自由行動って班で行動するんじゃないの?」 「あほやなぁ、そんなん計画表だけでええの!」 「ええーっ!そうなの?」 「そうだよ。私も瑛くん誘うんだ」 「うちもハリー誘うで」 「ええええ?!」 「もがんばりーや」 「がんばってね、ちゃん」 「あ、えっと、うん、がんばる」 知らなかった。 そういうもんなの? まあ、まだちょっと先だし………どうやって誘うか考えとくか。 *** 「オッス、」 「針谷、オッス。あ、ねえねえ、おもしろい話聞く?」 「聞いてやる。言ってみろ」 「ちゃんの日記より、タイトルは『お化け屋敷』。 8月○日、私は遊園地のお化け屋敷に行きました。 中にはたくさんのお化けがいて追いかけられて−−−」 「ストップ!ストーップ!オマエ、オレに喧嘩売ってんのかっ!」 「えー違うよー針谷が聞くっていったんじゃん」 「それのどこがおもしれぇ話だっつーの!」 「おもしろかったよー、お・ば・け・や・し・き!」 「〜〜〜〜っ!!!」 「アハハ」 *** 佐伯はあいかわらず女子に囲まれてるなぁ。 あ、こっち来た。 背後の女子の目がこわー………。 「さん、ちょっと」 「なに?」 「あのさ………あのこと誰にも言ってないよな?」 「言ってない。大丈夫。信じなさぁい」 「そっか、うん、そうだよな、よかった、はは」 「うん。大丈夫。ぜーったい言わないから今度行ったらおごってね!」 「は?強請りか?」 「冗談冗談!」 *** 「ちゃん」 「クリス〜、元気だった?」 「ううん、ボク、暑いのめっちゃ苦手やねん」 「夏バテしちゃったの?」 「うん。今日も暑くてダメダメや〜」 「今日は始業式とH.R.だけなんだからがんばれ!」 「ちゃんがナデナデしてくれたらがんばれるんやけどなぁ」 分かった分かったと言って腕を伸ばそうとしたら クリスの頭を別の手がワシワシとなで始めた。 「いたたたた!志波クン、いたい〜!」 「ちょっ、志波、なにしてんの?!」 「ガンバレ………」 「こわいよ、なんかそれ、感情こもってないし」 「そうか?」 「志波クン、おおきに!もう、元気にナリマシタ」 「よかったな、クリス」 *** 「おはようございます」 「おはよー時ちゃ〜ん!あれ、若ちゃんは〜?」 「時ちゃん、担任昇格かぁ?」 「ええ〜、若サマ、担任じゃなくなっちゃうのぉ?」 「いや〜ん」 「み、みんな、違いますよ!若王子先生は始業式の準備で体育館です」 「なーんだ」 「よかった〜」 「「「はははは」」」 「出席とったら移動しますからね」 「「「はーい」」」 若王子先生と時ちゃん先生はまだ仲直りできてないのかな。 あとで聞いてみなきゃ。 *** そんなこんなで2学期スタート。 2年生の2学期! なんか特別な感じがする!! 始業式でも午後の部活はあるのだ。 着替えて部室から出てったら 結花の周りに制服姿の1年の女子がたくさんいた。 なに? あ、話終わったみたい。 そのまま女子集団は野球部の見学??? 「おーい、結花!アレなあに?」 「マネージャー希望者なの」 「アレ全部?あんなに?」 「そう。夏休み明けは毎年何人か来るんだよね」 「夏のみなみちゃん効果、みたいな?」 「うん。でも今年は希望者が多いね」 「そうなんだ」 「たぶん……あ、これはあくまで想像だけど……みんな志波くん狙い、じゃないかなぁ」 「はぁ?」 「予選でかなり注目されたし」 「あー」 マジですか? そういえば、さっきの子たち以外にも野球部の見物人がいる……… 「でもマネージャーって結構大変だから、ほとんど辞めると思うけどね」 その言葉が本当であって欲しい………。 結局、週明けから野球部マネージャーに仮入部したのは5人。 あれが全部志波狙い??? 積極的に行動できるのが5人だとしたら他にどんだけ志波ファンはいるんだろう? あ、頭クラクラする。 私モタモタしてる場合じゃないかも??? 「はぁ…………」 「………お疲れ。部活きつかったのか?」 「へ?!志波?!あ、これは、その」 部活終わって帰る時間、 部室棟の端っこ、 そんな所に志波がいると思わないじゃん。 はー、びっくりした。 「えーっと、今帰り?」 「いや……待ってた」 「ああ、野球部の人?」 「を。……一緒に帰らねぇか?」 「…」 「…」 え? 私? ええ? 一緒に? なんで? えええ? 「………ダメ、か」 「あ、違う、ダメじゃない!一緒に帰る!」 「………サンキュ。じゃ、行くか」 「う、うん」 野球部の人たちと一緒じゃなくてよかったのかな? でも、でも、でも、嬉しい! 「志波せんぱぁ〜い!」 歩き出そうとしたら後ろから呼び止められた。 今日からマネージャーに入った子? 「おまえ………?」 「1年の白鳥真綾です。せんぱい、マネージャーの名前ちゃんと覚えてくださいね」 「あ、ああ、すまん」 「あのぉ、もう帰っちゃうんですか?」 「ああ」 「マネージャーはまだお片付けあるから帰れないのに………」 「悪いな」 「じゃあ、これ受け取ってくださいね」 「は?」 「マフィンなんです。せんぱい、甘いものが好きって聞いたから………」 「いや………」 「受け取ってくれないんですかぁ?真綾、がんばって作ってきたのに………」 うわっ、泣く? この子、私よりちっちゃい。 ふわっとしたくせ毛、 目がクリクリしてて 肌が真っ白………。 「シバセンパイ………受け取ってあげたら?」 「先輩、真綾の味方してくれるんですか?うれしいっ!」 「え?なんで、私のこと………?」 「体育祭の時、天地くんと仲良く手つないで走ってましたよね」 「ああ、天地の友達なの?」 「同じクラスなんです。 天地くん、いっつも『先輩は素敵』って話してるんですよ。 陸上部の試合を応援に行った後なんか、すっごく誉めてました。 本当に素敵ですねぇ」 「あ、あはは、ありがと」 なんかカワイイんだけど………なんだ、この感じ? 早くこの子から脱出したくなってきた。 志波もなんかムッとしてるし。 「志波、受け取ってあげなよ、せっかくだから」 「………ああ」 「じゃ、これ」 志波が「今日だけだぞ………」って言い切る前に ダッシュで走って行ってしまった白鳥。 「また明日も持ってきまぁす!」と遠くで叫んでいる。 ………あなどれない。 「フゥ………なんなんだ、あれは?」 「なんだろね………あ、でも、かわいらしい子だね」 「そうか?」 「そうじゃない?」 「………」 「なに?じっと見たりして?」 「いや………帰ろう」 「うん?」 ふーん、とりあえずストライクゾーンではないわけだ。 男子から好かれそうなタイプに見えるんだけど。 しかし「明日も」って積極的だなぁ。 結花が言ってたとおり、志波狙いなんだ………。 他の子たちもあんな感じなの? 「そういえば、片付け、しなくていいの?」 「ああ。邪魔だから準備も片付けもしなくていいって1年に追い出された」 「優しい後輩だね」 「半分はな。本音は上の奴らの悪口が言えないだけだろ」 「ああ、志波がこわいとか、志波がこわいとか、志波がこわいとか?」 「………」 「あはは!絶対そうだよ!」 「おまえな………」 「あははははは!」 志波はチームにちゃんとなじんで前へ進んでる。 私も決めないとな。 翌日。 朝練の準備からも追い出された志波は 朝の森林公園のランニングに復活。 また一緒に走れるようになってすごく嬉しい。 そして今日は若王子先生の誕生日。 朝から「若サマ、おめでとう〜!」って声があちこちで聞こえる。 若王子先生って人気あるんだとあらためて思う。 ニコニコ手なんかふっちゃって 時ちゃん先生のことも考えてあげれば良いのに。 この微妙な空気のまま修学旅行や文化祭を迎えるのはいやだから クラスの力持ち2名に協力してもらうのだ! 「じゃあ、時ちゃん先生がんばってね!」 「はい」 「若王子先生が逃げないようにドアはこの2人がガッチリガードするからね」 「志波くん、津田くん、よろしくお願いします」 「「はい」」 「時ちゃん先生、ファイ、オー!」 化学準備室の外の廊下で小声で円陣組んだ私達。 ちゃんと話して仲直りできるといいんだけど。 若王子先生は時ちゃん先生の話をまともに聞かずに いっつも口実を作って逃げちゃうんだって。 だったら逃げられないようにすればいいのだ。 「行ってらっしゃい!」 時ちゃん先生が準備室に入ったのを見届けて すかさず志波と津田がドアをガッチリ押さえる。 これで完璧! しばらくしたら中から笑い声が聞こえてきた。 もう大丈夫かな? よし! ドンドンドン! 「若王子せんせーい!時ちゃんせんせーい!まだですかー?! もう部活の時間なんですけどー!」 「さん、大丈夫です、お話終わりましたよ!」 ドアを押さえていた志波と津田と目配せして頷きあう。 ドア、オープン! 「良かった。じゃあ、私達これで!」 「ありがとう、さん」 「時ちゃん先生良かったね、じゃ!」 「失礼します」 「じゃーな、若ちゃん、時ちゃん!」 「あ、そーだ!若王子先生、私、本当に相談があるので、また部活の時に。じゃ!」 「志波、津田、協力感謝!」 「当然のことしただけ!やっぱ若ちゃんと時ちゃんは漫才してないとつまんないしな!」 「だな」 3人でバタバタと廊下を走っていたら 途中で氷上に見つかって怒られたけど いい気分だったから全然気にならない! そう、いい気分だ! こんな日は新しいスタートに相応しい! 「若王子先生、私、チャレンジしてみます!」 「そうですか。さん、がんばりましょうね」 「はい!」 私も前へ進みたい。 だから若王子先生の言葉を信じて決めたんだ。 今から転向して間に合うのか分からないけれど。 やるだけやってみよう! Next→ Prev← 目次へ戻る |