48.後輩
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転向を決めてから1週間。 練習メニューが変わって 思いもしなかったところが筋肉痛になったり 疲れ方も違ったりとまだ慣れない。 だけど! すごく楽しい! 新しいことってどうしてこんなにワクワクするんだろう? 若王子先生も責任を感じてか つきっきりで指導してくれたりして ちゃんと陸上部の顧問っぽくみえる。 若王子先生と時ちゃん先生は仲直りできたみたい。 教室コントも復活して本当に良かった。 あ、でも、誕生日の翌日は二人してあくび連発だったんだよね。 クラスの人がつっこんだ時……… 「どうしたんだよ〜、若ちゃん、時ちゃん!」 「あっはっは、これは大人の事情です」 「わ、若王子先生〜〜〜………余計な事おっしゃったら 担任の座を頂いちゃいますよ?」 「それは困ります!」 「いいぞー!時ちゃん!」 「やれやれ!」 「みんな、あんまりです………」 よく分からないやり取りで終わっちゃったんだっけ。 休み時間、協力してくれた志波と津田に 「成功してよかったね」 って話に行ったときについでに聞いてみたんだけど……… 「ねえ、大人の事情ってなんだろね?」 「「………」」 二人とも答えてくれなかった。 なんだよぉ、けち。 誕生日だったんだしお酒でも飲みすぎて二日酔いだったのかな? ま、仲良しに戻ったんだから、なんでもいいか。 そうそう、1週間続いてることもある。 今日も………いた。 部活が終わると部室棟の端っこで志波が待っててくれる。 野球部の片付けから解放されて早く帰れるようになったし、 方向が一緒だし、 一人で帰るのもなんだし、 ってぐらいの理由なんだろうけどさ。 「志波、お疲れ!」 「ああ、お疲れ」 「えっと、今日も一緒に帰れるの?」 「は?」 「ダイジョブだよ」 「じゃあ、行くか」 「うん」 「志波せんぱぁ〜い!」 はは、これも1週間続いてる………。 結花の言ったとおりマネージャー業は大変だったみたいで 仮入部した1年生のうち残ってるのはこの白鳥だけ。 結花に聞いたところによると、 白鳥はマネの仕事はきっちりこなしてるし、 ルールなんかも必死に勉強してるから、 志波への過剰サービスは余程の事が無い限り 部員全員が黙認してるらしい。 片付けもテキパキとやって 洗濯も手が荒れるとかの文句は言わずにやって で、お菓子作りも出来る、と。 家庭的ポイント高い? 「せんぱい!今日はクッキー焼いてきちゃいました、うふっ!」 「おまえ………最初の日だけって言ったろ?」 「おまえじゃなくて、白鳥真綾ですよ? ちゃんと名前覚えてくださいね? それと、最初だけなんて聞いてないでぇす」 「聞いてなかっただけだろ………」 「あ、今日は、先輩にも作ってきたんですよ。 だから受け取ってくださいね?」 「え?えーっと、ありがと?」 あ、思わず受け取ってしまった。 しかし毎日毎日すごいな、この子。 部活終わって家に帰ったら結構遅くなるのに 1日も欠かさず作ってくるもんなぁ。 「オッス、志波先輩!先輩!」 「ああ、えーと………」 「天地、部活、今終わったの?」 「そうだ、天地。応援団だったな」 「志波先輩、名前覚えてくれたんですね!うれしいなぁ!」 「あ、ああ」 天地って志波のファンなのかしら? 目がキラキラしてて、動きがキャルンってなってる! 「白鳥、だめじゃないか?志波先輩と先輩の邪魔したら」 「え?邪魔?真綾、邪魔だったんですかぁ?」 「当たり前でしょ?先輩たちは、ねえ?」 「……なんだ?」 「言っていいんですか?………付き合ってるんですよね?」 「はい?!ち、違うよ!ねえ、志波?」 「あ………ああ」 「ほらぁ、もう天地くん適当なこと言わないでよぉ」 「おっかしいなぁ?僕の勘って結構鋭いんですけど………まあ、いっか」 勘? そんなものが本当に働いてるのか分からないけど 私の「好き」オーラが出てしまっていたのかと思って 自分の体をマジマジと見直してしまった。 「あ!先輩方、なんだか美味しそうなもの持ってますねぇ!」 「天地くんの分は無いよ」 「ああ、白鳥があげたの。ふーん………部活の後って甘いものがほしくなるんですよねぇ」 「あの、天地、あげようか?私の」 「わあ!いいんですかぁ?」 「だめだめ!それは先輩にあげたんです!天地くんが食べちゃだめ!」 「あ、じゃあ、1枚だけ、おすそわけ。はい、どうぞ?」 「わぁ!先輩、優しい!僕、まだ手洗ってないからぁ、そのままいっただっきまーす!」 「え?」 パクッ 「……っ!」 「あー!天地くん、なにしてるのぉ!」 「ありがと、先輩。うん、なかなか美味しいよ、白鳥」 「あはは、なんか、動物に餌あげてるみたい」 「動物って………先輩、ひどいなぁ。 でも美味しかったからいいか、色々と。 あ、じゃあ、僕はこの辺で失礼します!」 「あ、私も片付け残ってたんだった。 じゃあ、また明日も持ってきますねぇ!」 「あいつ………」 「行っちゃったね。明日も持ってくるって」 「ん?ああ、そっちもどうにかしねぇとな………」 「そっち?」 「コレ」 「コレねぇ………むぐむぐ、あ、ホントにオイシ、このクッキー。 ……いいねぇ、こんなの毎日もらえて」 「いいのか?」 「私に聞かれても………」 「まあ、そうだな」 そうだそうだ! 私に聞く必要ないじゃん。 ヤならもっと強く断ればいいのに。 甘い物で餌付けされちゃったりして………。 ………なんかありえる、志波の場合。 あはは。 はぁ………。 Next→ Prev← 目次へ戻る |