51.修学旅行2日目



「皆さん、おはようございます!」

「若王子先生、張り切ってますね」

「はい!なんといっても今日は先生の特別企画ですから!」



今日はクラス別の団体行動の日。
行き先は担任の先生が企画する事になってたんだけど
結局今日まで全然教えてくれなかった。



「挨拶はいいから早くどこ行くか教えろー」

「慌てない慌てない」

「もったいぶんなー!」

「はいはい。では、時任先生プリントを配ってください」



配られたプリントには今日まわるコースと………



「なにこれ、クイズ?」

「そうです!今日はウォークラリーです!拍手!」



パチパチパチ………って拍手すること?
ま、いっか。
クイズとか、面白そうだし。



「まずはスタート地点の銀閣寺まで行きましょう!」











銀閣寺まではバスで移動して総門の前に全員集合。



「では、先生は午前のゴール地点で待ってますからね。
 途中のチェックポイントに時任先生がいます。
 気をつけてまわってきてください」

「ええっ?若王子先生は一緒に歩かないの?」
「それってサボリじゃないの?」
「引率しなくていいのかよ?!」

「あっはっは。先生、みんなを信じてますから。
 あー、それと、さん、競争じゃないので走らないように。
 よーく言っておかないとすぐに一番狙いしちゃうから。
 あ、そうだ!先生いい事考えました。
 さんには最後尾から来てもらいましょう」

「確かには一人で走って行っちゃいそうだよなぁ!」
「「「あはは!」」」

「ええっ!なんでー?!みんなひどくなーい?!」

「ククッ………」



う、志波にも笑われた。
試合じゃないんだからそんな一番狙いだなんてしないって。
だ、大丈夫だもん!



「ふむ………志波君、君にも最後尾をお願いしましょう」

「は?!」

「我クラスの一等賞コンビに先頭きられると大変ですからね。
 あ、後ろからみんなを追い立てるのもブ、ブーですよ?
 ノンビリ来てください」

「はい、分かりました」
「はーい」



若王子先生ナイス!
なんか納得いかなかったけど志波と一緒なら嬉しい。
志波は若王子先生に対してはいっつも素直だよなぁ。











銀閣寺の総門をくぐり、背の高い生垣に囲まれた道を歩く。
ゆっくり歩くためにクイズの一問目を読みながら行くことにした。



「『最初の問題です。銀閣寺の正式名称は?かっこサービス問題ですかっことじ』だって」

「東山慈照寺」

「え?!志波、すごい!」

「パンフレットに書いてある」

「あーなるほど」



答えをプリントに書き込む。



「次はなんだ?」

「ええっと、『二問目です。銀閣寺は誰が建てたでしょうか?かっここれもサービス問題ですかっことじ』だって」

「それも書いてありそうだな」

「うん。っていうか歴史でやったような気がする」

「そうか?」

「そうだよ。確か足利義政。義満が金閣寺」

「へぇ………」



簡単簡単と思いながらプリントに書き込む。
順調過ぎて「最後尾」とか言われなかったら確かにドンドン進んじゃうな、これじゃ。
若王子先生が「競争じゃありません」って言ったって「やるからには一番!」って。
いつもの私なら。

でも、ね。
今日は違う。

横にいる大きな人を見上げる。
なんていうか、すごく不思議。
いつもと同じ制服なのに、
知らない場所にいるっていうだけで
いつもとは全然違う感じがする。
なんか、いいな、こういうの。



「なんだ?見ててもなんにも出てこねえぞ?」

「は?」

「腹減ったんじゃねぇのか?」

「ええ?!違うよ!さっき朝ごはん食べたばっかじゃん」

「オレは腹減った」

「ええ?!もう?!」

「あ、プリン………」

「プリン?あれのこと?」



生垣を抜けてきれいな庭園に入ったら真っ白な富士山型の砂の山があった。
近づいてみれば『向月台』と書いてある。



「あ、これ次の問題だ。えー、『向月台はどうやって作るでしょうか?』」

「プリンの型に入れるんじゃねぇか?」

「あれ全部入れたらひっくり返すの大変じゃない?」

「そうか」

「ってか、みんなここで行き詰ってるみたいだね」



パンフレットを隅々まで読んでも書いていないようで
グループになってあーだこーだと話し合ってる。
話し合っただけじゃ絶対分からないと思うんだけどなぁ。

うーん………よしっ!



「すみませーん!」



お庭のお手入れをしている人に聞けば分かるだろうと思って声をかけてみた。
聞いた相手がいい人ですごく丁寧に説明してくれて
ついでに銀沙灘の作り方も教えてくれた。
職人さんってすごい!



聞いてきた内容をみんなに伝えて再出発。
銀閣寺の問題はこれでおしまいだから後は拝観コースどおり歩くだけ。
苔の緑がとってもきれいだし、一番高い所に来て振り返ったら眺めがすごくいい。
気持ちいい!



「ハァ………プリン………」

「志波………どんだけお腹すいてるの?」

「頭から離れない、あの白いヤツ」

「入口の角にシュークリーム屋さんならあったけどね」

「それもいいな」

「食べれればなんでもいいんじゃ………」











銀閣寺を出て哲学の道を南下する。

プリンじゃなかったけどシュークリームをゲットした志波は機嫌よさそう。
私も一つ食べちゃった。
皮がサクサク系の抹茶味。
もう一個買えばよかったかも………って人のこといえないな。



「桜、咲いてたらきれいだろうね」

「ああ……今は葉っぱだらけだな」

「う……いない、絶対いない、きっとちゃんと消毒されてるはず………」

「ああ、けむ−−−」

「わーーーー!言わないで、名前聞いただけで寒気がする!」

「ククッ……また走って逃げんのか?」

「うるさい!」



疎水に沿った狭い道。
桜の枝がせり出してて、それをよける志波はちょっと歩きにくそう。
狭いから二人で並んで歩く所より一列になって歩く所の方が多い。
志波を後ろから見ながら歩くのがなんかいい。

おっきな背中とか後頭部とかしか見えないのに、
木漏れ日、流れる水の反射、そんなのがキラキラして
私の変なフィルターもかかって、まぶしい。







哲学の道は、春は桜、秋は紅葉、初夏は蛍といい所らしい。
水の流れと並木の木陰で涼し………


………涼しくないよ!!
暑いよ!!
午前中なのに、なに?この暑さ???
9月の中旬だから当たり前?
でも絶対はばたき市より5℃は高い。
予想最高気温が毎日34℃なんてありえない。



「あ………」

「なに?どうしたの?」



と、志波の前方を見てみたら
キラキラと光ってるものが道の脇に落ちて………るんじゃない。
しゃがみこんでるんだ。



「クリス?!大丈夫?」

「あ、ちゃ〜ん………ボク、もう暑くてあか〜ん」

「水飲む?さっき買ったばかりだからまだ冷たいよ?」

「ありがとう………あ、でも、これちゃんのやないの?」

「いいのいいの。またどっかで買うから、ね?」

「でもぉ、ええんかなぁ………」



志波の方を窺うクリス。なんで?



「クリス、飲んでおけ。脱水症状にでもなったら大変だ………」

「ほっ………じゃあ、いただきま〜す………おいし〜!」

「クリス、立てる?一緒にゆっくり行こ、ね?」



クリスが仲間に加わった。
なんて何かのゲームみたいだな、これ。
難問を解決しながら目的地へ進む、ってね。

次のクイズは『法然院には誰のお墓があるか』。
確かめに行ったらそこにも暑さでへばってる人が………。



「千代美!だいじょぶ???」

「ああ、さん。少し休憩したから大丈夫です」

「じゃ、一緒に行こっか?」



へばっている千代美にあかりと結花が付き添っていた。
更に3人が仲間に加わ−−−。
だからゲームじゃないって。
私も暑くて頭が若干おかしくなってるかも。



「ねえねえ、志波、次の問題なに?」

「ん………『大豊神社にいるのは狛○○○。なーんだ?』」

「なーんだ……って、志波………」

「そう書いてある」

「……っぷぷ」

「笑うな……」

「あはは!」

「志波クン、カワイイなあ」

「クリス……」



大豊神社までの細い坂道を登ったら時ちゃん先生が待っていた。
それとそこにも休憩中のクラスメイトが数人。
さらに仲間が増え−−−もういいや、なんでも。
みんな合流して哲学の道に戻り更に南下する。



「次のクイズは………『猫の写真をゲットせよ』だって」

「猫なんているのかな?」

「あかり、いなくても志波をその辺に立たせとけば寄って来るから大丈夫だよ」

「そうね。志波くん、うさぎとかすごかったものね」

「ええ!そうなんですか?人は見かけによらないというのは本当なんですね!」

「志波クン、ネコさんとウサギさんにもモテモテなんや〜。ええな〜」

「おまえら………」



「あ!あそこ!『若王子』って書いてあるよ?!」

「憩いの喫茶店………」

「フフフ、ここはね、にゃくおうじって読むのよ?」

「にゃく?そっか、時ちゃん先生はコース知ってるんだもんね」

「ええ。私もねこの名前見つけた時は笑っちゃったの」

「にゃく!ははは!確かになんか笑える!」



喫茶若王子と書かれた看板の前で無事ネコにも出会えた。
志波に擦り寄ってきたネコを抱き上げて無事写真ゲット完了。
「さんきゅ」なんてネコに話しかけてる優しそうな志波にポーッとなってしまった。
暑いせいで、いつもよりのぼせるのが早い………。



午前のゴールは若王子神社。
若王子先生もちゃんとそこにいた。



「皆さん、お疲れ様。お昼ご飯の前に最後のクイズやってきてくださいね」



『若王子神社の熊野大権現の額にカラスは何羽いるでしょう?』



「12羽、かな?」

「5羽、だろ?」

「え?え?私1羽も分からないよ?」

「ボク20羽〜」



みんなそれぞれ違うことを言っている。
なんで?



「みんな正解ですよ」

「どういうこと?若王子先生?」

「見る人によって違って見えるんです」

「へぇ………すごいな」

「さあさあ、お昼にしましょう。待ちくたびれちゃいました」



お弁当が用意されてて、境内の片隅の休憩コーナーで食べた。
みんなで外でお弁当食べるなんて遠足みたい。
課外授業は希望者だけだし、
クラスのみんなでこうやって外で食べるのは
なかなか機会が無いから新鮮!



「先生、暑くてグッタリです」

「若王子先生、歩いてないくせに」

「ややっ。待つのも大変なんですよ」

「暑いなら疎水に落ちてきたらどうですか?」

さん………先生に冷たいです」

「疎水の水よりは冷たくないと思いますよ?試してみます?」

「遠慮しておきます………」











午後は若王子先生も時ちゃん先生も一緒に歩き、
永観堂や南禅寺をゆっくりまわった。
暑さでグロッキーな子がいるからと早く切り上げることになったけど
一番ばててたのは若王子先生だよね、あれ。



こうして修学旅行2日目が終わっ………



いやいや、まだやることがある。
明日の自由行動、誘わなきゃ。







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