54.修学旅行4日目(夜)
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コンコン……… 夕食も入浴も済んで、 部屋でのんびりしてたら ドアをノックする音が聞こえてきた。 初日から千代美とあかりと結花と一緒の部屋。 こんな時間に誰だろうね?なんて顔を見合わせてたら、 それは激しくなって……… コンコンコンコン!!!! 「はーい!ちょっと待ってください!」 千代美がサッと立ち上がってドアに向かう。 さすがテキパキ対応してくれるしっかりものだ。 「え!そ、それは!………いえ、行きたくないわけではありませんが………で、でも!」 だけど、珍しくオロオロと焦っている千代美の声が聞こえてくる。 次の瞬間、訪問者が「ほらほら!みんな行くでー!」と騒ぎながら部屋に入ってきた。 「はるひちゃん、どうしたの?」 「ゴロゴロしてる場合やないで!」 「はるひ、どこ行くの?もうすぐ消灯時間じゃん。」 私達の反応を見て、はるひはフフーンともったいぶってる。 なんかそういうとこ、針谷に性格似てきてない? 「あんな、男子の部屋でおもろいイベントやるみたいやねんか。ちょっと見にいかへん?」 「え?イベント?」 「そうや!なんや楽しいことになってるらしいで〜!」 「イベントですか?」 「なにがあるの、はるひちゃん?」 「楽しいことってなんだろうね?」 「教えてよ、はるひ!」 「ヒント!修学旅行の夜の恒例イベントと言えば?」 「「「「あ!」」」」 「ポン・ピンポ〜ン!ほな、見つかる前に急ごう!」 そうだった、そうだった! 陸上部の先輩が奥義を教えてくれたんだよー! うう〜!アレを試せるなんて楽しみだぁ! 大部屋の入口を開けると既に埃っぽい空気が充満してた。 「おう!来たか!見つからないようにとっとと入れ!」 「オッス、針谷。ここB組の部屋でしょ?なんで針谷もいるの?」 部屋に入って周りを見回してみたら なんだか色んなクラスの人が入り混じってる。 なんだ?この人選? 「あんな、ハリーとうちは若ちゃんに誘われたんよ。」 「若王子先生もいるの?!」 あ、確かに、部屋の隅のテーブルに 氷上と一緒になんか書いてる先生を発見。 だからB組の部屋でやるのね。 あ……… 「志波、オッス!」 「。……来たのか。」 「もちろん!!」 「ずいぶん張り切ってるな……」 志波は相変わらずのテンションだけど 顔がちょっと怖くなってるよ? 負けないぞって思ってるんじゃない? 志波だって内心は張り切ってるに違いない。 「おーい、若王子!揃ったみてぇだぞ!」 「ややっ!ハリー、受付ご苦労さまです!こちらも準備が出来ました。ああ、楽しみですねぇ!」 「では、諸君、このクジを引いてくれたまえ!」 「同じ番号を引いた人とペアになるんですよ。先生、マジがんばりますっ!」 「若王子先生もやるんですね………あ、そういえば、時ちゃん先生は?」 「時任先生は教頭先生に見つかるとまずいからと断られました………残念です。」 「あー、はは………」 苦笑………若王子先生は見つかっても大丈夫なんですかとはあえて聞かないよ、もう。 しかし、なんで先生が一番ノリノリなんだろう? ホント先生らしくないよなぁ………。 で、男子と女子に別れてクジを引いた。 私は……… 「1番!男子の1番だれ〜?」 「オレだ」 「志波?ホントに?」 わーわーわーわー! ラッキー! 私ついてる! バンザイしながらクルクルまわりたい気分だよー! 「……ぼーっとして食らうなよ。」 「う……志波こそ。足手まといにならないでね!私は反射神経には自信あ……わっ!」 「ククッ………言ってる傍から………」 「むーっ!誰ー!コッチに投げたの!!」 「まあ、がんばれ………」 「言われなくても!」 「よろしくな」 「あ………えっと、よろしくね。やるからには優勝しようね!」 差し出された右手をギュッと握って答えたら「絶対勝つ」とボソッと呟いてニヤリと笑った。 あはは!絶対負ける気がしないや、志波となら。 「おいおい、オマエらがペアってどう考えてもずりーだろっ!」 「俺もそう思う。はさ、ほら、陸上部ってことで若王子先生と組んだらどうだ?」 「針谷も佐伯も勝てる自信が無いからって文句言わないでよ。」 「なっ………自信が無いわけが無い!相手が誰だろうと勝つ!!それが俺流………」 「オレだって負けねぇっつーの!見てやがれっ!!」 「陸上部伝統の奥義………爆走!100mダッシュ!!」 「きゃー!」 「志波勝己必殺の技………受けてみろ!!千本打撃っ!!」 「ぎゃー!!」 あはははは! 奥義ってすごい! 私の奥義は陸上部で代々受け継いできた技なんだけど、 他にも、伝授されたものをアレンジしたり バイト先で教わってきたりしたものもあったりで、 みんなすごく見ごたえがあった。 で、も! 体育会コンビな私と志波は順調に勝ち進み、 これに勝ったら決勝進出!! 審判役の若王子先生がカウントダウンを始めている。 じゃ、最後にもう一回奥義を………… ドンドンドンドン!! 「こらーーー!何騒いどるかぁっ!!!」 「やべぇっ!教頭だ!みんな隠れろ!」 きょ、教頭先生?! 隠れるったってどこに??? 押入れは既にギューギューみたいだし、ど、ど、ど、どうしよう? 「、こっちだ」 「ふぇっ?!」 腕を引っ張られた勢いでバランスを崩したところに 肩をトンッと押されたもんだから、 パフンと布団に倒れてしまった。 で、その隣に私を引っ張った志波が掛け布団と一緒にやってきた。 「ちょっと我慢してろよ」 「え?わっ………ぷ………」 見つからないように掛け布団を一緒にかぶって、 ってとこまではいいんだけど、 その布団の中で抱き寄せられて 私の顔は志波の胸に埋もれてしまった。 誰かが部屋の電気を消してシーンと静まり返る。 ちょっ………近いっ、近すぎっ、てか、くっついてるってばっ!! 志波の心臓の音とか呼吸の音とか全部聞こえてくる。 が、我慢してろって言われても、 熱いし、 息苦しいし、 ジッとしてられないよ。 なんとか隙間を作りたくてモゾッと動いたら、 抱き寄せている志波の両腕にグッと力が入った。 「(動くな………)」 「(で、でも………)」 「(しっ………静かにしてろ………)」 私の頭頂部に向かって志波がボソボソ喋る感触が伝わってきて 頭のてっぺんまでくすぐったくて熱くなる。 既に志波に触れられてるところとか 顔とか耳とかすごく熱かくて なんか、もう、頭から湯気でそう………。 部屋のドアが開く音がして、 誰かが、たぶん教頭先生が、 中に入ってきて様子を見回っている。 足音が近づいてくるにつれて 志波の腕に力が入ってくる。 息が苦しいのは、 腕の力が強いっていうのもあるけれど 自分の心臓がバクバクしてるせいだ、絶対。 このままだったら私の心臓は破裂しちゃうんじゃない? 口から飛び出しちゃうんじゃない? って位、すごい速さでドキドキ言ってる。 ………だけど、志波の心臓もさっきよりドキドキしてる? 見つかったらまずいって理由でドキドキ? 私と同じ理由だったらいいのになぁってちょっと寂しくなって 志波の体操着を掴んでいた手に力を入れた。 「この部屋じゃなかったのか………」 部屋から出て行く足音と扉の閉まる音を聞いてホッと溜息をついた。 だけど、何故か志波は腕を緩めてくれない。 「志波?」 「………」 まさか寝てるんじゃないよね? 「あの………」 「………もう少し」 もう少し?何を? って、なんか更にギューッてされてるんですけど? なんで? 私は志波の事が好きだから嬉しいけど、 じゃあ、志波はなんで? もしかして………ううん、だって言われてないし。 でも私も言ってないんだった。 でも、まさか………いや、都合よすぎだし。 あああああ、もう分かんないよっ!! 熱いし 心臓破れそうだし 頭に血がのぼってきたし………。 「苦しいよっ………」 その一言でハッとして、志波は私を解放してくれた。 慌てて離れて布団をバッと跳ね除けて起き上がる。 頭がグルグルしてて 心臓もバクバクしてて 何も言えずに下向いてたら 「悪い………不可抗力だ。」 って言われた………。 ふかこうりょく? それだけ? そうか、それだけだよね。 私ばっかりドキドキしてなんだかバカみたい。 くっついてた時に聞こえた志波のドキドキは、 私のと同じじゃなかったんだ。 ばれないか心配してるドキドキだったんだよね。 「別に………志波が悪いわけじゃない。」 「?」 「見つからないように隠してくれてありがとう。」 「あ、ああ………」 「部屋に戻る……おやすみなさい、また明日っ……!」 「あ、おいっ?!」 他の皆も隠れてたところから出てきてて やばかったなーなんて和やかに話をしてる中、 私は男子の部屋を飛び出した。 ギュってして期待させといて不可抗力って、ひどくない? なにそれ? 何考えてんの? もしかして、からかわれた? あんな状況でそんな事する人じゃないって思うけど………。 でも、じゃあ、ホント何考えてるんだろう? 怒ってんだか落ち込んでるんだかなんだかよく分からない。 ズンズン廊下を歩いて部屋の布団にボフッと倒れた。 明日、自由行動、どうしよう………。 Next→ Prev← 目次へ戻る |