55.修学旅行5日目
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「結花は今日どこ行くの?」 「ん?舞妓さん体験だよ。」 「私も行きたいなぁ………」 「は志波君と約束してるんでしょ?」 「だって……」 志波が何考えてるか分かんないんだもんとブツブツ言ったら キョトンとされたあと、クスクス笑われてしまった。 「志波君だってが何考えてるか分からないって思ってるかもよ?」 「そうかなぁ………」 「知りたいって思うならもっと一緒にいて話さないと。」 「うーん……」 「というわけで、ほら行ってらっしゃい!」 ドンと背中を押されてトトッとよろめいた先に志波が座ってるのが見えた。 待ち合わせしたロビーのソファで腕組みして下向いてる。 うー………昨日の私って感じ悪かったよなぁ、きっと。 だって、いっぱいいっぱいになっちゃってたんだもん。 なんか、意識して声かけ辛いけど、約束したんだから行かなきゃ、だよね。 平常心平常心………よしっ。 「お、おはよう!」 「………ん……?」 「あれ?ひょっとして寝てた?」 「……ちょっとな。」 「昨日寝るの遅かったの?」 「………早く目が覚めたから、ひとっ走りしてきたんだ。」 「ええっ!?」 「体もなまってたし、ちょうど良かった。」 「そっか。私も走ればよかったなー。美味しいものの食べ過ぎで太ったような………」 「そうか?」 はっ! 体の話なんかしたら昨日の思い出しちゃうじゃん! 志波も「そうか?」とか言いながらもしかして………。 ダメダメ、えーっと、話題を変えよう。 「あのー、そろそろ行こうか?」 「ああ、そうだな。目も覚めたし……出発するか。」 「う、うん。」 志波の反応は普通だ。 昨日のことは忘れてる? それとも気にするほどのことじゃないって事? 志波にとっては………。 バスに乗って移動する時も 眠かったみたいでずっと目を閉じてた。 私はといえば、外を見るように窓に張り付いてたけど、 実際は狭い座席でドキドキして、 景色なんて一つも覚えてないのに。 「バス、酔ったのか?」 「え?どうして?」 「静かだから。」 私達は最初の目的地について参道を歩いていた。 こうやって心配してくれたり 気を使ってくれたりする事がよくあるのも きっと根が優しいから、というだけなんだろうな。 「大丈夫だよ。緑がきれいだなぁって思ってたの。 それと紅葉したらきれいだろうなぁって。」 「そうか。……で、なんでココなんだ?定番すぎだろ?」 「銀メダルより金メダルがいいから。」 「はぁ?」 「だって銀閣寺しか見なかったら銀しかもらえないかもしれないじゃん。 金閣寺見たら金もらえるよ、きっと!」 「そういうもんか………?」 「信じるものは救われるのデス!」 歩きながらココに来た理由を説明した。 志波がいつも通りなら 私もそうしよう。 その方がきっと楽しい。 いつも通りに。 普通に。 「うわぁ!ホントに金だ!!実物はやっぱり違うね!」 「……なにしてるんだ?」 「ん?お祈り。金メダルくださいって。」 「あれに祈って効果あんのか?」 「さあ?念のため?」 お土産を買うならいい所があると はるひに聞いていたので 午後は清水寺に行った。 「いい眺めだな。」 「じゃあ、手すりまで行く?」 「………無理だ。」 「だよねぇ!ぷぷぷ………。」 「笑うな……。」 「だって……あ、針谷もいたらニガコクできたのにねぇ。 針谷は胎内めぐりで、志波は清水の舞台って。」 「こんなとこ来てまでしなくてもいいだろ………。」 「そう?いい思い出になりそうだけど?」 「フゥ……。へえ。夜、見られる時期もあるらしい。」 「ホントだ……ライトアップするんだ。 修学旅行がもう少しあとだったら見れたのにね。残念。」 「……べつに、修学旅行じゃなくてもいいんじゃないか?」 「えっ?」 「来ようと思えばいつでも来られるだろ?」 「まあ……あ、でも貯金無いからすぐには無理だなぁ。」 その後、志波がなんかボソボソ言ってたんだけどよく聞き取れなくて、 「部活も忙しいし次来れるのなんていつだろう? 志波も同じでしょ? ………だから思い出残すために手すりまで行こう!」 なんてふざけてみたら思いっきり溜息吐かれた。 『清水の舞台を出たらすぐ左手に見える神社に行くこと』 ってはるひに言われてたから そのとおりにテクテクと進んで行った。 こじんまりとしてるのに、やけに人が多い神社。 階段のぼって境内に入ったところなんて人が並んでるし、 そんなにご利益があるのかな?ここ? 「っ……………………。」 「どうしたの?」 「……ここがどんな神社だか分かってて来たのか?」 「ううん。はるひに行けって言われたから来てみたんだけど………?」 「縁結びとか、恋占いって思いっきり書いてあるぞ……」 「えっ?あ、ホントだ!!」 はるひ〜〜〜。 そりゃ、お願いしたいことあるけどさ。 でもお願いしたい相手が一緒の時に 手を合わせてムニャムニャなんて集中できないよ。 あ、でも、すごくご利益があるなら、 ここでちゃんとお願いしておくべき? 「おまえ……ココで願い事したいのか?」 「えっと、まあ、一応………。志波は?」 「オレは………」 「な、なに?」 「…………なんでもない。さっさと回って帰るぞ。」 「うん……。」 じとーっと見られたから呆れられたのかと思ったけど 回ってくれるみたいでよかった。 チョー短時間だけどお願いも出来たし、お守りも買っちゃった。 いわゆる恋愛成就ってヤツじゃなくて「勝」って書いてあるお守り。 ライバルに勝つってのも含まれてるみたいだけど 部活もガンバルって意味にも見えるしね。 おみくじも引いちゃった。 『吉』って、なんかあんまりよくない? 運勢は……… 『人に先立ってやることすべて凶、控えめに、先走るな』 ……私を否定されてるような気がする……ううう………。 待ち人は……… 『相手にくる気じゅうぶん。遅れてもやって来る。』 ………ほ、ホント? 恋愛は……… 『相手の態度に不安を感じてもその愛は確かなもの。進んで吉。恋人のいない人も近々あらわれる。』 ………ほ、ほ、ほ、ホント〜〜〜??? 「なんて書いてあったんだ?」 「ふぇっ?!き、吉だって。あはははは。」 「嬉しそうだな。」 「えーっ?!そんなこと無いよ、あはは……あー、志波は引かなくていいの?」 「オレはいい。……それより早くここから出たい。」 「あ、そーだよね。行こっか。」 清水寺を出てお土産を見ながら坂をブラブラと下りていく。 家に何買ってこうかな。 あ、部活の後輩と先輩にも買ってこうかな。 自分にも記念に何か買おうかな。 それにしても、さっきのおみくじホントに当るのなあ? 進んで吉?ホントに? くる気じゅうぶん?ってこの人が? だけど、チラッと見上げる志波は ぜーんぜんいつも通りで そんな素振りは微塵も感じ取れない。 ポーカーフェイスで分からないだけ、とか? そんな都合の良い話あるわけないか。 「あ………志波、このお店でお土産見てきていい?」 「ん?ああ。じゃあ待ってる。」 「志波は?」 「あー……」 「せっかくだから何か見てみたら?」 「……そうだな。」 お土産を選ぶのに一旦別行動で、 買い終わったらまた集合ということにした。 普通というのは普通にしてればなんとも無いけど 意識してそうするのは緊張してたみたいで 一人になって力が抜けた。 「……悪い、待たせた。」 「ううん、大丈夫。じゃ、行こっか。」 あとは八坂神社の方へまわって帰るだけ。 志波は普通だ。 今日も一日、いつもと変わらなかった。 私が意識してるのもバカらしいぐらい。 例えば、もしも、ここで私が何か言えば変わるのかな? 意識してもらえるようになるのかな? ………でも、そんな風に考えられないって言われたら? 近づきたい。 あとちょっとの距離がもどかしい。 だけどこの距離が遠くなってしまうのはもっと嫌。 どうしたらいいんだろう? 志波はなんで自由行動に付き合ってくれたんだろう? 一昨日だって、どうして探しに来てくれたんだろう? 枕投げの時も………どうして? 「あの……あ、お土産、いいのあった?」 「ああ……同じものをふたつ買った。」 「なになに?」 「………………」 質問に失敗した……。 聞きたいことじゃない上に、 答えにくいこと聞いちゃったみたい……。 それにしても、何を買ったかよりも、 誰にってことの方が気になるな………。 「あ、いいよいいよ、言わなくて。えーっと、喜んでもらえるといいね!」 「……だといいんだけどな。」 「大丈夫でしょ。心のこもったお土産だもん。」 「……そうか?なら、これ。」 立ち止まって差し出してくれたのは小さな袋。 「これ………って私に?」 「オレと同じ物でよければ。」 「あ、ありがと……。」 私も立ち止まって受け取る。 袋の中には携帯のストラップが入っていた。 『オレと同じ』という事はお揃い? えーっと、私にくれたんだよね? なんで? どうして? 「昨日……」 「ん?」 「悪かった。」 「え?」 「怒ってんだろ?……その……枕投げン時のこと。」 「あ、あれは……不可抗力だったんでしょ……。」 「それは……」 「仕方なかったから、なんでしょ? だから別にいいよ、気にしないで。 今日も付きあわせちゃって私の方こそゴメンね。 一昨日だってホントは野球部の人たちと出かける予定だったのにね。 せっかくの修学旅行だったのに迷惑かけてホントごめんなさい。」 こんな感情的に言っても 志波はきっとわけが分からないだろうな。 でも、なんか止まらない。 「……………迷惑じゃない。」 「でもっ……」 「オレがおまえと一緒にまわりたかったんだ。だから迷惑じゃない。」 「え?」 「昨日だって、もう一度教頭先生が………いや、なんでもない。」 「?」 「の方こそ、迷惑だったんじゃねぇか?」 「私?私は全然迷惑なんかじゃない。」 そうか、と言ってホッとした顔で笑う志波。 あ………志波も私がどう思ってるか気にしてた? 私だけ、じゃなかったのかな。 「そろそろ帰るか。……ほら。」 「え?手?」 「人が多いから、はぐれないように。」 「あ、うん………。」 差し出された手を繋いでまた歩き始めた。 志波の顔がちょっと赤いのは暑いからだけじゃないよね? 「はぐれないように」と言ったのも 「不可抗力」と言ったのも 本当は違うんだって思ってもいいの? Next→ Prev← 目次へ戻る |