57.文化祭(2年目)



「結花、あかり、コレおかしくない?」

、足しまってるからすごく似合うよ?」

「カワイイよ、ちゃん」

「そっかなぁ?……ま、いいか。じゃ、行こう!」

「「うん!」」



控え室で着替えを済ませて、
フロアエリアの方へ出てみたら、
千代美のテキパキした指示のおかげで、
教室内の準備もすっかり終わっていた。

2-Bの出し物はディスコ。
今年も部活で事前の準備手伝えなかったから、
今日は頑張るんだもんね!



「そろそろお客様が来る時間です。皆さん、持ち場についてくださーい!」

「「「おー!」」」



ディスコのフロア係を任命されたんだけど、
フロア係って一体何?と思っていたら、
飲み物とかを出すので要はウェイトレスと似たようなものらしい。
ウェイトレスなら去年もやったから大丈夫。
でも、衣装がなぁ……。
コレ、ホントおかしくないかなぁ???





「あ、志波」

「その服……」

「う……やっぱり変?」

「……」

「どしたの?」

「いや……持ち場、行ってくる」

「あ、うん。頑張ろうね」

「ああ……」



うう、なんか怖い顔して気合入れてる。
やっぱり変なのかな、この服。
あ、いや、服が変なんじゃなくて私が似合わないのか。
服はカワイイもん。
結花もあかりもカワイイんだもん。

衣装係さんが用意してくれたのは
ミニのワンピースに
同じ柄のターバンと
白いロングブーツ。
ゴーゴーガール風って言ってた。



家でお母さんに「ゴーゴーって何?」って聞いたら
お母さんが小さい頃に流行ってたダンスだって言ってた。

「実際に着たことは無いけど、お人形の着せ替えにあったわ、そういうお洋服。
 でも、お母さんの知ってるディスコはねぇ、
 ワンレン・ボディコン・扇子・お立ち台よ」

ワンレン・ボディコンって何?
扇子?
お立ち台?
ハテナと首を傾げていたら
には似合わないわね。
 んー、でもゴーゴーガールなら可愛らしくて良いかもね」
と笑われてしまった。



お母さんの言ってたあれって
私が子供っぽいって事だったのかなぁ?
今日の志波はいわゆる黒服ってやつで
なーんか、大人っぽくてカッコイイ……。
私、この服ですら子供っぽくて似合ってないんだ。
ハァ……。











「ねえ、あかり。さっきから女のお客さんばっかじゃない?」

「そうだね。どうしたんだろ?」

「入口って去年と同じで若王子先生が立ってるんだよね?」

「そのはずだけど……?」

「ちょっと様子見てくる」



若王子先生、去年はちゃんと呼び込みやってたよな。
結構好評でお客さんも入っていたはず。
今年は不調なのかしらん?

入口のそばに行って外を窺ってみたら
若王子先生が去年と同じような調子で
ちゃんと客引き係してる。



「お姉さんヒマ?踊ろうぜー」



ただし、棒読み。



「若サマ先生!私もナンパしてくださ〜い!」

「ナンパしましたー。踊ろうぜー。」

「わたしも〜!踊る踊るぅ!」



うん、うまくいってるみたい。
「女子を集めると男子も集まるって作戦です」って張り切ってたもんね。
うんうん、確かに入ってくる女子の後ろから男子が「行こうぜ」とついてくる。

あ、でも、かたまった。
あれ?
なんか冷たい空気が???

ああ?!
入ってこようとしてた男子が去っていく。
なんで?どうしてー???



「志波君!だめですよ、お客さん怖がらせちゃ!」

「若王子先生……」

「それじゃ客引きの黒服係、失格ですよ?」

「はぁ……スイマセン」



冷気の発生源は志波だったんだ。
なにやってんだか……仕方ないなぁ、もう。



「若王子先生、私も手伝います!」

「や、さん、助かります!」

……」

「志波、交代する?」

「いや……おまえ、中に入ってろ。フロア係なんだろ」

「そうだけど……だってお客さんが少なくて暇なんだもん」

「フゥ……ココにいんならイイか……」

「え?なーに?」



志波の独り言、よく聞こえない。
なにブツブツ言ってるんだろ?
なんで不機嫌なのかなぁ?



さん、お客さんが来ましたよ!」

「若王子先生、いきますよ?」

「お姉さーん!」
「お兄さ〜ん!」
「「踊ろうぜー!!」」



こんな調子でもお客さんが結構来てくれるんだから
やっぱり若王子先生って人気あるんだな。
でもって、私もちょっとは役に立ってる?
順調にお客さんが増えてきた。

志波は、客引きって言うより用心棒みたいに立ってるだけ。
でも、制服でも私服でもない大人っぽい格好が
沢山の女子の目をひいていた。

むー……











「よう、!」

「あ!真咲先輩!いらっしゃいませー!」

「真咲君、久しぶりですねー」

「若ちゃん、相変わらずだなー。お、勝己もちゃんと協力してるな、偉い偉い」

「子供扱いするな」

「先輩!ご案内しまーす!」



真咲先輩の背中を押して教室に押し込む。
うふふ。
だって、早く結花に会わせたい。
結花、楽しみにしてたんだもん。
先輩だって結花の様子を見にきたんだろうし。



「結花!お客さん連れてきたよー。あとはよろしくね!」

「あ、真咲先輩、いらっしゃいませ」

「お、おお」

「じゃ、私、また外にいるから」



フフフ。
お互い照れたりしちゃって
なんか良いよな良いよな〜!



「……中、いいのか?」

「ん?結花に任せてきたよ」

「そうか」

「うん」



お邪魔なんかしたくないし。
それに私はココにいたいし。
志波のそばがいいし。
ニコニコ笑って志波を見たら
フッって笑われた。
私、なんか変なこと言った???











午前中でクラスでの係が終わったから
制服に着替えて午後は自由!

志波と結花は野球部の係があるからとグランドへ行ってしまった。

私は真咲先輩と一緒に変り種クレープを食べてから
グランドへと向かった。



「賞品は、はね学饅頭なんです。
 シングルで1個、
 ツーベースで2個、
 スリーベースで3個、
 ホームランだと5個。
 1回1リッチでーす!」

「正ピッチャーは投げねぇんだろ?」

「はい。他のポジションの選手が投げるのでチャンスありますよ!」

「おー、よーし!見てろよー!」



おお、真咲先輩、結花の前だからって張り切ってる。
結花も素振りしてる先輩の姿見てポヤーっとしちゃってカワイイなぁ!もう!

先輩、昔野球やってたってだけあって
結構良いスイングしてるよなぁ。
ツーベースぐらい軽くいけそう。
頑張れ。



「よっしゃ!さあ、ピッチャーは誰だー?」

「……オレが投げる」

「か、勝己?」



志波?!
ピッチャーなんて出来るの?
普段は外野手でしょ。
外野だから肩は強そうだけど……。
まあ、お祭りの遊びのピッチャーだから
全力で投げられなくてもいいのか。



「タ、タイム!!!」



あれれ?
なんか、先輩、こっち来るけど、なに?



「どしたの、先輩?」

、おまえ、バッティングできるか?」

「え、まあ、バッティングセンターとか行ったことならあるけど……」

「よし、じゃあ、オレと代われ」

「はぁ?なんで???」

「勝己のヤツ、リトルの時はピッチャーやってたこともあるんだ」

「へぇ……」

「リトルリーグってのは体の大きさだけでピッチャー決めたりすっからな」

「へぇ、そうなんだ」

「あいつ、目がマジだから本気で投げてきそうだ。
 だから交代な、よろしく、

「は?」

「バッター交代!!」

「えええっ?!」



「大丈夫。秘策がある」って先輩に耳打ちされて
ほら、行って来いと背中を押される。
ま、良いんだけどさぁ。

そういえばバッティングセンターも暫く行ってない。
けど、打つのは楽しくて好きだった。
久しぶりだけど当たるかな?



「えーっと、志波、よろしくね」

「あ、ああ……」



先輩の作戦どおり、バッターボックスで小首をかしげて挨拶。
これが何にきくんだろう?



一球目を志波が投げる。
あ、ホントに良いフォーム。
ピッチャーでもおかしくない。
でも、私が一応女だからか、かなりのスローボール。
これなら打てそうなんだけど……
……見送る。

これが作戦その2。
一球目は見送って、
その後、下唇を噛みながら志波を見る。
なにそれ?って先輩に聞いたけど
言われたとおりやってみろと言うから仕方ない。



二球目はさっきよりもっともっとゆるーい球。
よーし!



カキーン!!!



やった!
抜けた!!
思いっきり一塁へダッシュ!

女子がバッターの時、
外野無しで内野も利き手と逆の手で守る
ってハンデ付きだったから、
外野に抜けたボールにはまだ誰も追いついていない。

だから、そのまま二塁へ!

「行け!!!」
ー!がんばれ〜!」

もうっ!真咲先輩ってば調子いいんだから。
結花は野球部なのに応援なんてしちゃっていいの?

もたついてる守備を横目に二塁も蹴る。

最近、長距離の練習ばかりしてて
短距離ダッシュやってなかったから結構きつい。
でも…………なんか、ワクワクする!



三塁は目の前。
後ろ振り向く余裕無い。
このまま行ける?
それとも三塁でストップ?



「……まわれ!」







あははは!
志波、良いの?
応援なんてしちゃって?
野球部なのに。
しかも打たれた張本人なのに!

三塁を蹴る。

ホームでキャッチャーが構えてる。



「いいぞー!、行けー!」
「そのまま行っちゃえー!」
「おーい!女子相手にクロスプレイはするなよー!」
「「「ははは!」」」



あはははは!
野球部のみんな、良いの、それ?



タンっとホームベースを踏んで駆け抜ける。
わぁ!気持ち良いっっっ!!!
ダイヤモンドをまわりきったのは初めて。
こういう気持ちなんだ。
空を見上げて笑った時の志波の気持ち。

走る先に見える応援してた人たち。
先輩、結花、野球部の人とかギャラリーとか。



「結花!」



そのまま結花のとこまで走って行って抱きついた。



「すごかったね、

「すっごく楽しかった!」

、速かったなー」

「あ、先輩、代打させてくれてありがとー!」



ポスッ。
頭の上に手。



「やられた……」

「えへへ。志波の球、打ちやすかった」

「フゥ……まあ、いいか」



野球部の人たちもまわりに来て
なんか色々褒めてくれて
ちょっとこそばゆい。



「野球部文化祭の歴史で初のランニングホームランだ!」
「しかも、女子!」
「ホントすげーぞ、!こんど代走頼む!」
「おー、それ、いいな!」



「あはは!ありがとございましたー!」



なんか、
なんていうか、
志波は野球部で
私は陸上部だからって
線を引いてたのは私自身なんだって気付いた。

グランドにいても
フェンスのコッチ側にいても
同じ高校の友達で先輩で後輩なのに。

部外者だからココには入れないって思って
モヤモヤしてた夏の予選大会の時。
そんなことにこだわってた私は小さい。



次に野球部の試合を見に行く時は
素直に勝利を喜べそう。
よかった、今日、ここで走って。






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