58.志波誕生日(2年目)




「ウーーー……1っ!!!」

「あー!負けたっ!悔しいぃっ!」

「あはは!じゃ、、これよろしくな」

ちゃん、本当にお願いして良いの?」

「ははは……負けは負けだからね……行ってくる」



中休み、図書室に本を返しに行こうと思ったら、
津田とあかりも返しに行くところで
それなら誰か一人が行けばいいじゃんって
勝負を持ちかけたのは私。

それなのに負けてしまった、うう……。

三人分の本を持って図書室に着いたのは
中休みも半分が過ぎた頃。
急がないと3時間目が始まっちゃう。



「えっと津田の本は私と同じスポーツの棚っと。
 あかりのは……歴史?歴史の棚ってどこにあんの?」



普段借りないジャンルの本棚はどこにあるのか全然分からない。
いつもは足を踏み入れないような奥の方へと進む。



「あ……」



志波だ。



朝から教室にいないなと思ってたんだけど
こんな所で寝てたんだ。
時々いないなーとは思ってたけど、
いつもここで寝てるのかな?

入口のカウンターからは死角になっていて
お昼寝……じゃなくて、朝寝?……には丁度良いのかもしれない。
窓から差し込んでいるお日様の光がポカポカ暖かそうだし。



音を立てないように正面の椅子に座ってみた。



「よく寝てる……」



んー……どうしよう?
もうすぐ3時間目始まっちゃうけど、
起こした方が良いのかな?
それともこのままお昼まで寝るつもり?



「し・ば」



えへへ。小さな声で呼んじゃった。
起きてたとしても聞こえないんじゃないかって位小さな声で。
だから寝てる志波には絶対に聞こえないはず……って思ったんだけど、
熟睡していたはずの志波がもぞっと動いた。



「ん…………?」

「あ、えと、おはよ」

「ああ…………次、何時間目だ?」

「3時間目だよ」

「……3時間目……?まあ……いいか……」

「ええっ?また寝るの?」

「………………もここにいろよ」

「え……?」



……えーっと、それは一緒にサボろうって事?
一緒にっていうのにはかなり魅力を感じるんだけど
小心者の私ってば実は授業をサボった事が無いんデス。

ど、どーしよ?

なんてオロオロしてたら
右手を掴まれた。

あはは、志波ってば寝ぼけてるんでしょー!
……って冗談にできないような雰囲気。
だって、下から見上げてる志波の目が笑ってないんだもん。
顔が赤くなっちゃって恥ずかしいのに
目が逸らせないよ。

あああ、鐘、鳴ってる!

もう、このままでも良いかもって
ちょっと思ってしまったんだけど、
鐘が鳴り終わるのと同時に
志波の手はスルッと戻っていった。



「それ、戻しといてやるから」

「う、うん……って、志波は?」

「もう少し寝てく……おやすみ」

「おおおおやすみ……じゃ、行くね」



アタフタと図書室を飛び出して来ちゃった。
廊下を走って教室に戻ったけど、
席についても動悸がおさまらなくて
授業どころじゃなくって……
……これじゃサボっても一緒だったかも。











あれから一週間。
やっぱり寝ぼけてたのかなと思うほど特に何も無い。
けど、なんと言うか、
前より志波を近くに感じるのは
私の気のせいなのかな?



「おはよう!」

「おはよ……」

「志波、今日、誕生日、だよね?」

「ん?」

「え?違った?今日21日だよね?」

「…………あ」

「あ、って忘れてたの?……ププッ」



志波らしいねーってケラケラ笑いながら走ってたら
おなかの横が痛くなっちゃったよ、もうっ。

11月も後半。
空気は冷たくなってきているのに
森林公園の木々は赤や黄に衣替えして暖かそう。

ジョギングコースにも
きれいな色の葉っぱの絨毯がフワフワと……



ズルッ



「ふぎゃっ!」

っ?!」



湿った葉っぱに乗って滑った!
と思ったら、志波が私の腕をナイスキャッチしてくれた。



「はぁ、助かった……ありがとう」

「いや……気をつけろ」

「うん」



ほら……なんと言うか、
二人の間の空気もあったかい、
ような気がする。

傍にいればこうやって穏やかな気持ちでいられるし、
いなくても志波を思うとホニャーとした空気に包まれる。
あ、私がそう思ってるだけなのかな?

でも、なんとなく、
うん、なんとなくなんだけど、
志波も同じように感じてくれてるんじゃないかなって思うときがある。

私が「ドジッた、えへへ」と笑えば、
志波も「まったく」って笑って返してくれる。
面白がられてるだけかもしれないけど……
でも、それだけじゃないような気もするし……

うーん、これは自惚れてるだけ?
そう思うようになったキッカケは、
やっぱり、一週間前のアレだよね。
あんな雰囲気がまたあったわけじゃないんだけど。











「結花〜〜〜〜」

、何?どうしたの?」



朝の学校、昇降口で結花を見つけてその腕に絡みついた。
バカな自分を慰めて欲しかったんだもん。



「聞いてよ、私ってバカなのー!」

「なーに?どうしたの??」

「あのね、朝のトレーニングで志波に会ったの」

「うん。毎日仲良しで羨ましいな」

「え?えへへ、そんな事ないよぉ……じゃなくて!」

「ん?」

「せっかく会ったのに『誕生日おめでとう』って言うの忘れちゃったの」

「ええっ?!」

「転びそうになって助けてもらったら
 それに気をとられてキレイサッパリ忘れちゃったの。
 うう……私ってバカ?」

「えーっと……」



あーん!
結花に苦笑されちゃったよ。
プレゼントは最初から学校で渡すつもりだったんだけど、
おめでとうの言葉は一番に伝えたいって思ってたのに……
ホント、私のバカー!!











誰かにに冷やかされるのは志波が嫌かなって思ったから
教室では声をかけられなくて、
休み時間もタイミング逃して、
結局部活帰りになってしまった。



「お待たせ!」

「いや……じゃ、帰るか」

「うん」



いつ渡そう?
今?
学校出てから?



「志波せんぱ〜い!」

「白鳥……おまえ、いい加減に−−−」

「あ〜ん、そんなに迷惑そうな顔しないでくださいよぉ!
 志波先輩、今日は誕生日でしょう?
 だ・か・ら!
 もう少し広〜い心で受け取ってくださいね。
 お誕生日おめでとうございます!」

「ハァ……サンキュー」

「どういたしましてですぅ!
 じゃ、お疲れ様でした〜!
 先輩もさよ〜なら〜!!」

「ばいば〜い」

「ったく……」



相変わらず感心しちゃうほどの白鳥の勢い。
あんな風に押し切っちゃう所、強いなぁって思っちゃう。
私なんて、またもやキッカケを失っちゃって、
なんか遅くなった分、すっごく出しづらいんだけど。











「静か、だな」

「え?」

「いつもと違う。なんか悩み事か?」

「な、悩みじゃなくて……」



帰り道、隣を歩いてる志波に言われてしまった。
悩みとかじゃなくて
プレゼントいつ出そう?
おめでとっていつ言おう?
ってグルグル考えてたから
無言になっちゃったんだよ。



「あ、あのっ!!」



私が急に立ち止まってしまったから
志波は数歩先まで進んでから
不思議そうな顔で振り向いた。



「どうした?」

「こ、これを……!」



すぐに出せるように鞄の外ポケットに入れてあったプレゼントを志波に差し出す。



「お誕生日おめでとう!」

「あ……サンキュー。開けて良いか?」

「うん!もちろん!!」



良かった!
言えた!
渡せた!

ホッとしてニパッっと笑った顔が変だったのか
志波はビックリした目をして
視線をプレゼントに落とした。

それでプレゼントの中身を見て
更にビックリした顔になった。



「これ……なんでオレの欲しいもん分かった?」



心の中でよしっとガッツポーズ!
プレゼントはシルバーのブックマーク。
志波と本って全然結びつかなかったんだけど……



「えーっと、この前図書室で寝てた時、本持ってたから。あれ、どうしたの?」

「こないだリトルの時の監督が持ってきてくれた。大リーグに行った選手の愛読書らしい」

「そっか。面白い?」

「ん?ああ……けど、なかなか進まなくて困ってた」

「ふふっ!そうかなぁって思って栞にしたんだよ、プレゼント」



笑っちゃったことに怒ったのか
当てられちゃったのが不満なのか
少しだけほっぺを赤くして
拗ねてるような顔になったのが
私としては逆に嬉しくなっちゃって
余計に笑っちゃうんですけど?



「あはは!あのね、私もよくやっちゃうんだよ。だから同じかなって思って」

「何を……?」

「読んでる途中で寝ちゃって、どこまで読んだか分からなくなる」

「あ……」

「続きから読もうと思うんだけど、ちょっと前に戻らないと分からないでしょ。
 で、結局同じところ何回も読んでたりね」

「……同じ、だな」



二人で同時にプッと噴出して大笑い。
共通な部分があるっていうのがなんだか嬉しい。
クスクス笑い続けながら歩き始める。



「あ、でも、私はそんなには寝ないよ!ふふふっ」

「どうだか。ククッ」

「そうだもーん。志波は本を開くとすぐ寝ちゃいそうだよね。クスクス」

「…………なんで、分かる?」

「ええっ?!ホント???」

「冗談だ」



してやったりってニヤッと笑う志波に
本気にしちゃったじゃんって軽くパンチしたら
もっと嬉しそうに笑うから
私も笑っちゃった。



「今度貸してね、あの本」

「ああ。じゃあ、急いで読む」

「ノンビリ待ってる。クフフフフ」

「コレがあるから大丈夫だろ」

「だね!うん。でも、ゆーっくり待ってるよ」



クスクス笑い続けてたら
……」ってちょっと睨まれた。
でも、それすらも、なんか楽しい。



こんな風にずっと一緒にいたい。



志波の一番近くで。



少し勇気出してみようかな。






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