63.コクハク |
「『一位指名』か……貴大らしい進路だよね」 「まあな」 一月二日、 中学の友達の家で今年の抱負を書初めして その書初めで凧を作って 土手で凧揚げ。 卒業しても毎年メンバーがちゃんと揃うって、 結構すごい事なのかもしれない。 昔の仲間と集まる……こういうの、いつまで続けられるのかな。 そんな事を考えてしまうのは 私達ももうすぐ高3で 次の進路を考える時期が迫っているから、かもしれない。 「は、どうすんの?」 「高校入ってから実績ないし、受験だなー」 「一体大?」 「陸上部って考えると二流大も良いかなって思うんだよね。 でも、運動理論とかもきっちり勉強したいならやっぱり一体大かな。 二流の陸上部は伝統あるから捨てがたいけど、今のままだと偏差値足りないしなー。 どうしようかなぁ……」 「の事だから、そうやって悩んでても、サクッと決まるだろ」 「えー? 何それ?」 「悩んでるくせに誰にも相談しないで、いつの間にか一人で決めてる、ってのがのパターン」 「あー……そう、かも」 考える時はとことんグルグル考えるけど、 決めるときは案外あっさり「コレ」ってなる。 それで、一度「コレ」って思ったら、 もう誰の意見も聞かない。 だって、自分で決めたんだもん。 高校も自分で決めた。 大学も、その先の進路も、そうやって決めるのかな? 「けどさー、悩んでる時は相談しても良いんじゃねーの?」 「そうかなぁ?」 「ああ。好きなヤツの悩みなら、共有して一緒に解決したい。男として」 「へー。あ、でもそれ、女子も同じだよ」 うん。仲良しの友達の悩みは一緒に考えたい。 良い解決策が浮かぶかどうかは分からないけど 話すことで気持ちが軽くなってくれれば嬉しいし もしかしたら役に立てるかもしれないし。 「……、軽くスルーしたな」 「へ? なにを?」 「俺は友達としてって言ったんじゃないぞ」 「え? あっ……あーーーーーー!!」 そうか、そういう事だったんだ! 昨日、志波にスルーされたって思ったけど そっかー…… ちゃんと伝わってなかったんだ。 「な、なんだよ、急に」 「あ……ごめん、貴大」 「そしていきなり『ごめんなさい』か。あーあ、祝勝会もしてくれなかったしなー。冷たいよなー」 「あ、それについては、本当に謝る。ごめんなさい」 「いいよ、もう。どっかの誰かに夢中で忙しかったんだろ」 「え、あ、う、そうとも言えなくも無いけど……長距離に転向して部活も忙しかったんだよぉ」 「ホントかー? ま、いっか。じゃ、今年の夏こそよろしく」 「うん……じゃないよ! 今年は羽学が甲子園行くんだから!」 「は? 甲子園行くのは今年も一高なんだよ!」 「羽学!」「一高!」って言い合ってたら、 周りに「「おまえら五月蠅い!」」って怒られた。 そりゃ貴大にも頑張って欲しいけど、 やっぱり自分の高校に出場してもらいたい。 ……志波に、行ってもらいたい、甲子園。 「。もし、一高と羽学が直接あたったら――」 「ん?」 「――いや、やっぱ、いいや」 帰り際、貴大が何か言いたそうにしてたけど、 私は、あの中途半端な告白をどうにかしなきゃって そればっかり考えていて上の空だった。 冬休み最後の日曜日、志波を森林公園に誘った。 先延ばしにしちゃった散歩の約束を果たすため。 それと、もう一つ。 今日、ちゃんと、って思って。 ……あー、でも、緊張する。 持ち物よーし 髪型よーし 服装よーし なんて指差し確認を何回も繰り返して でも早く準備しすぎたから 手持ち無沙汰になってしまって 予定よりかなり早く出てきた。 早く着きすぎた……けど、遅れるよりまし。 冷たい空気を深く吸い込んで 目を閉じてゆっくりと吐き出す。 ん、ちょっと落ち着いてきたかも。 しばらくそうしてたら通りの向こうに……志波だ。 と思ったら、向こうも私に気付いて走ってくる。 おー、速い速い。さすが。 「ハァ、悪い……遅れたか」 「ううん、まだ5分前だし、私もさっき来たとこだから」 「…………ホントか?」 「な、なんで? ……ひゃっ!」 スッと伸ばされた志波の手が、 予告もなく私のほっぺに触れるから 変な声が出ちゃったじゃん。 「冷たくなってる。待ったんだろ」 「う……で、でも! ちょっとだから、大丈夫!」 「…………そうか」 「うん。歩けば、あったまるし」 「……じゃあ、行くか」 いつも走ってるコースを並んで歩くのは不思議な感じ。 いつも通らない道を行くのはすごく新鮮。 池の真ん中の橋を渡ってみたり、 林の中の遊歩道で枯れ葉の柔らかい感触を楽しんだり。 「晴れてよかったな」 「ん? ……ふふっ」 「なんだ? 何がおかしい?」 「だって……クスクス」 雪が振るか確かめに行くか、って理由で散歩の約束したのに。 それを忘れて、 でも、嬉しそうな顔で天気の話をする志波を見たら おかしくて笑っちゃった。 忘れちゃったことは、別にどうでも良い。 散歩に行くってことは、しっかり覚えててくれてたから。 だから、晴れでも雪でも、私は嬉しいんだ。 えへへと笑って見上げたら、 なんか眉間に皺よせて横向かれちゃった。 「ふぅ……まあ、いいか」 あれ? ちゃんと言えとか、笑うなとか、 怒られると思ったら、許されちゃった。 どうしてだろ? 広場に出たら、凧揚げしている家族連れが何組かいた。 「志波、キャッチボールやろ」 「は? そのバッグ、何が入ってるかと思ったら……」 「ダメ? あ、一応フリスビーも持ってきたんだけど……」 「…………わかった」 一回やってみたかったんだよね、志波とキャッチボール。 子供用の柔らかいカラーボールだけど。 向かい合って投げあう。 なんか、良い。こういうの。 志波は、私が捕りやすいように、必ず胸元に投げ返してくれる。 私もそうしたいのにあっちこっち行っちゃう。 「ごめんね、下手くそで」 「そんなことない。けっこう上手いぞ」 「ねえ、志波ももっと思いっきり投げてもいいよ」 「そうか? ……じゃ」 とか言いつつ、飛んできた球はフワッとゆるいスピード。 さっきと同じところで構えてたら、スッと軌道が変わった。 ? 後ろにポテポテと転がっていくボールを拾ってきて、志波に投げ返す。 そして、また、さっきみたいな球を志波が投げる。 で、また捕れない。 あれぇ? なんで? なんであんな緩い球が捕れないんだろ? ボールに細工が?! とか思って拾ったボールをクルクル見ていたら 「クッ……」 笑い声………… 「ちょっと、志波ぁ! 何したの?!」 「ハハッ…………」 「なにー?! なんなのー?!」 おなか抱えて笑ってるから 駆け寄って、ボールをポコンとぶつけて 下から睨んでやった。 むー……まだ笑ってるし。 笑いすぎで苦しいのか、私の頭に腕を乗せて寄りかかってきた。 お、重っ……。 「カーブ…………ククッ」 「へ?」 頭の上で笑いをこらえながら種明かししてくれたけど、 カラーボールでもカーブって投げられるの? 知らなかった……。 からかわれたことを怒らずに それよりも投げ方を教えてと言ったら 面白いヤツってまた笑われてしまった。 「夕方、なっちまったな」 「うん……」 志波は、もう帰らないとダメなのかな? 私、話があるんだけどな。 今日は、ちゃんと、って思ってきたんだから言わなきゃ。 「あの――」「おまえ――」 「あ……なに?」 「……もう気にする時間か? そうじゃなければ……」 「うん、大丈夫だよ」 「じゃあもう少し付き合え。まだ、足りない」 「うん! あ、でも、遊ぶんじゃなくて、ちょっと話したいことがあるんだけど……いい?」 「あ、ああ……」 あれ? 私、また変な事言った? はずした?? なんか、志波、ズルって力が抜けたように見えたけど。 付き合えとか、足りないとかって、遊び足りないって意味だよねぇ? 「……じゃ、そこ、座るか」 「ん」 ベンチに並んで腰掛ける。 薄暗くなって風も出てきて寒くなってしまった広場はもう誰もいない。 「寒くねぇか?」 「だ、大丈夫」 それより、緊張しちゃって。 スー ハー スー ハー …………よしっ。 「あのね、この前、私が言った事、なんだけど……」 「この前…………」 「うん、初詣の時の」 「ああ……」 なんだか聞きたくなさそうな空気。 迷惑なのかなぁ……。 面倒だとか……。 でもっ。 ちゃんと正しい意味で伝えておかないと! 「あの、もしかして志波が誤解してたらイヤだから、ちゃんと話しておきたくて」 「ああ、わかってる……ありゃ、ダチとして言ったんだろ」 「やっぱり……それが誤解なんだけどな」 「……どういう、ことだ?」 確かに友達の好き嫌いの話をしていて で、勢いで言っちゃった私も悪いけど なんで勝手にそんな風に思っちゃうかなぁ……。 「志波、目つぶってくれる?」 「……なんでだ」 「いいから、 つぶって?」 「ん…………こう、か?」 「うん。良いよって言うまで開けちゃダメだからね」 「……わかった」 目を閉じて少し俯いた志波。 その目の前でヒラヒラと手を振ってみた。 うん。ちゃんとつぶってる。 確認して、バッグの中の紙袋に入れといたものを取り出した。 それを広げて 志波の首に フワッ、クルッと 巻きつけた。 「っ……!」 「あ! まだ、目開けちゃダメ!」 がんばれ、私! 「えーっと……私、志波のことが、好きです」 うう、声が震えちゃう。 「友達としてじゃなくて、本当に……好き、なの」 志波が息をのむのが聞えた。 ビックリするよね。 こんな話。 「あの……いきなりこんなこと言ってごめんね。 だから、すぐに返事とか無理だと思うから、気にしないで…… ただ、できればで良いんだけど、今までと同じようにしてくれたら嬉しい、です」 「無理だ」 「え?」 「今までと同じなんて、無理だ」 「あ……」 そ、だよね。 でも、そんなに即答するほど…… どんな結果になっても頑張ろうって思ってたのに そんな風にはっきり言われちゃうなんて考えてなかったから 胸が痛くなっちゃう。 あ、バカ、泣くな。 耐えろ。 耐えるんだ、私っ! 「おい、もう目開けて良いか?」 「ああっ、うんっ、いいよっ!」 泣きそうな顔見られたくなくて志波と反対の方に首だけ向けた。 ふぅって溜息が後ろで聞こえる。 「、おまえだって……勝手に勘違いする」 「え?」 「おまえの気持ち知って、同じでいられるわけねぇだろ」 「え? ……ひゃっ?!」 横から肩を抱き寄せられて 私は志波に寄りかかる形に……って?! そのまま後ろから抱え込まれてしまった……えええっ?! 私の耳に、さっき志波に巻いたマフラーが触れる。 ちょっとくすぐったい。 私、どういう体勢になっているんだか…… 足とか浮いてるし。 ワタワタして立て直そうとしたら 志波の腕にきゅっと力が入って それから…… 掠れるような甘い声が降ってきた。 「オレも、おまえのこと、好きだ」 Next→ Prev← 目次へ戻る |