64.どこまで?




えっと……



えーっと…………



…………………………。



「……おい」

「……は、はい?」

「……かたまるな」

「だ、だって〜〜〜!」



この体勢がああぁぁ!!
なんか後ろからぎゅってされて……
それで、ス……ス、キ…………って言われ……た……よねぇ、今?!
か、かたまるなって言われても、ムリですーーーっ!



「ああ……悪い………」



「だって」の意味を察してくれた?
とりあえず放してくれたよ……あぅぅ……

でも、まだ、体中の血がすごい勢いで流れて
頭のてっぺんから足の先までカーッて熱くなってる。
胸がドキドキで喉がカラカラで頭はクラクラ。

とりあえずちゃんと座り直して、それから……
……そうだ、こんなときは深呼吸だ。
息を大きく、ゆっくり、深く、吸って、吐いて、吸って、吐いて……

それで
ええっと……



「ど、どうしよう?」

「……困るのか?」

「そうじゃない! すごくうれしい、です」

「じゃあ、どうして」

「あのね……」

「なんだ?」

「……私、さっきのさっきまで、
マフラー渡さなきゃーとか、
受け取ってもらえるのかなーとか、
自分の気持ち言わなきゃーとか、
ちゃんと言えるかなーとか、
色々いっぱいいっぱいで、
その後のこと何も考えて無かった。
……だから、どうしよう? みたいな?
それと……うれし過ぎてどうしよう? って感じ?」



めちゃくちゃだ……
自分でも何言ってるんだか分からない。
うー、恥ずかし過ぎて、もう泣きそう。
こんなんじゃ、いきなりあきれられちゃうんじゃ?
って不安になって志波の顔を見てみたら……

……なんか、苦笑されてる。
でも、あきれてるんじゃなくて、
なんというか、目が優しい。
……でもって、すっごい見てる。見られてる。



「落ち着け」



志波はそう言いながら私の頭にポフっと手を置いた。
優しくポンポンって繰り返されると、
本当に落ち着いてくるから不思議。



「……オレも、同じ」

「え?」

「これから一緒に考えればいい」

「一緒……?」

「ああ」



そっか。
一緒に、か。
一人でじゃなく二人で。
それって、なんか、すごくいい。

えへへと笑いながら
頭の上にあった志波の手を
よいしょとおろす。



「よろしくお願いします」



握手しながらよろしくの挨拶したら
「試合でもするつもりか?」
なんて言われちゃった。











一年の中で3学期というのは
試合も無くて退屈で
おまけ的存在だったけど
今年は全然違う気分だよー!



始業式とホームルーム終了!
午後の部活までの間に
志波とウィニングバーガー行っちゃう?!
なんて帰り支度をしていたら
結花が私の席のまん前に立った。



ー! 今からちょーっといいかな?」

「え? あー……」



どうしようかと志波の方を見てみたら
試合放棄するかのように溜息ついて目を閉じちゃった。

そういえば、クリスマスの時、結花、なんか言ってた。
……冬休みの野球部で何があったんだろう……
普段の結花からは想像できないのが余計にこわい。

お正月に仲直りしたよって、みんなにメールしたけど、
「詳しい話、学校が始まったらみんなに報告すること」
って、はるひから返信が来たっけ。

えーっと、もしかしなくても、
今からそれが始まるのね……





拉致・連行された先は、音楽室。
うわぁ……全員集合! みたいなことになってる。
この中で色々聞かれるのか……



……あれから、その、シバヤンとは……」

「ちゃんと仲直り出来たんだよね? ちゃん?」

「うん。お正月にメールしたとおりだよ」

「ほんま? よかった〜。
あんたのメール、あっさりし過ぎてて、
大丈夫なんかわかりにくかったんやで!」



そうだったっけ?
言われてみれば、
お正月はうかれてて
調子に乗っちゃって
軽い感じでメールしたような気がする。



「ごめん、はるひ。
みんなも、心配かけました。
ありがとでした」

「良かったですね、さん」

「なんだ。学校始まったから志波をシメようと思ったのに」

「また、竜子はそういう事言う……さん、良かったわねえ」



みんなにはホント感謝だなぁ。
いつか何かでお返ししないと。
何がいいかな。
購買の超熟カレーパンとかどうかな。
それともバレンタインのチョコを奮発しようかな。
んー……。



「ところで、?」



一瞬考えこんでたら
素敵に微笑んだ結花が私を覗き込んでいた。



「どうしたの、結花? ……あ、そうだ。真咲先輩に伝えてくれたり、色々ありがとね!」

「ああ、それは良いの。
ぜんっっっぜん良いの。
 そ れ よ り、
プレゼントは渡せたの?」

「あ、うん、それも。おかげさまで」

「そう! 良かったね! ……で?」



結花って、ニコニコ笑うとかわいいなぁ。
そんな笑顔で覗き込まれたら男子はグッときちやうだろうなぁ。
真咲先輩もこの笑顔にやられちゃってるのかなぁ。
思わず微笑み返して見つめ合ってたら
水島に優しい調子で怒られた。



「こら。それじゃ肝心な話が聞けないじゃない。さん、話の続きをしましょう?」

「続き? って……え? なに? みんな、どしたの?」



ずいっとみんなが近付いてきてニコニコ……ってかニマニマ? してる?



「いつですか?!」
「なんて言ったんや?!」
「返事は? ちゃん!」

「え? あの、えーっと……」



……その後、私がもみくちゃにされたのは言うまでもない。











あれから一ヶ月が過ぎ、
街はすっかりバレンタインカラー。
この冬は冷え込みが厳しいみたいだけど
そんなの関係ないぐらい私の気持ちはホカホカのまま。

志波も私も部活があるから寄り道はそんなに出来ないし、
会ってる時間が劇的に増えたわけじゃないけど、
それでも、一緒にいる時間は、ふんわりした気持ちに包まれる。



はホンマ幸せそうやなぁ」

「へ? なんで?」



今日は、はるひとバレンタインの買出しにショッピングモールに来ていた。
直前の日曜日だけあって女の子が沢山いたなぁ。
なんか、部活でめいっぱい運動するよりも
こういう買物は疲れてしまうんだよねぇ。
で、買物も終わったので今はお茶しているところなのだ。



「ほっぺが緩みっぱなしや」

「そうかなぁ?」

「せや」

「そんなこと無いのに……」

「そんなことより……あんたたち、どこまでいったんや?」



テーブルの向こう側から身を乗り出して
少しトーンを落として聞いてくるはるひ。
何をそんなにコソコソ話してるんだろう?



「どこまでって……あ、この前ね、スケートに行ってきたよ」



うふふ。
あれが両想いになってから初めてのデートだったんだよねぇ。
部活の無い日曜日があんなに嬉しいなんて初めてだった。











「さて、どうする?」

「うふふー、競争しよう! 競争!」

「ああ……じゃあ、その前に、足慣らし」



とかなんとか言って手つないで滑ったんだよねー。
志波の手はすごく温かくて
結局は競争もしないでずーっとそのまま滑った。



学校の帰りに手をつないだりした事もあるけど
制服だとちょっと恥ずかしくて
人が来たりするとパッと離れて……
その後、二人で目を合わせて笑ったりもしたっけ。

手を繋ぐ理由が、
足を怪我したとか、
暗くて危ないからとか、
迷子になるからとか、
そういうのじゃないのが
ものすごくうれしくて
胸の中がくすぐったい気分。



スケート行った日は、本当にデートしたって感じだった。
帰りに家まで送ってくれる間も手をつないでた。



「このまま、離れなくなっちまえばいいのにな。手」

「え? あ、うん、そう、だね」



志波は時々平気な顔して私がドキッとするような事を言う。
ドキドキさせられるのは嫌じゃないけど
でもやっぱり私ばっかりドキドキしてるのは悔しいから反撃。
つないでた手の指を絡めてみた。



「っ!!!」



志波、すごく驚いた顔して
あさってのほう向いちゃったっけ。
耳まで赤くなってたのがやけにおかしくて
笑ってしまった。



「まったくおまえは……」



ちょっとムスッとした声の響きに
やりすぎちゃったかな、と思って聞いてみた。



「コイビトつなぎ……ダメ?」

「勝手にしろ」



またそっぽ向いちゃったけど、
照れてるだけだったみたい。
ふふっ。



できるだけゆっくりゆっくり歩いてたのに
家まではあっという間で、
もっともっとゆっくり歩けば良かったと思った。



「ありがと。送ってくれて」

「いや……」

「……志波?」

「手……」

「え?」

「……おまえが離さないと、 帰れない」

「あ、そうだった」



なんだか、つないでいることが自然になってて
離すのを忘れてしまってた。
キュッと一瞬だけ力を入れて
指をゆっくりほどいて手を離した。

ずっとつないでいられたら良いのになぁ……











「あ、それから行ったっていうのとは違うんだけど
メールとか電話とかもちょびっとだけするようになったんだよ」



デートのあと、夜、短いメールのやり取りしてたら、
返信の代わりに電話がかかってきて
「声が聞きたくなった」って言われた。
あれはものすごく嬉しかったなぁ。
電話の後、ベッドの上を転がりまくったっけ。
えへへ。



「あんな……うちは、そういう意味で言ったんやない」

「え? じゃ、どういう意味?」

「はぁ……まあ、ええわ」



さっきまで乗り出していたはるひの体が離れていく。
今度は椅子の背もたれにグッタリと寄りかかった。



「えー? なにが? 教えてよー、はるひー」

「ええねん、ええねん。それが、の良さやもんね、うん」

「うーん……よく分からないけど、ほめてくれてるの?」

「あはは。そうゆうことにしといたるわ」

「ええ? なんか気になるよー」

「ええの! 気にせんとき。……まあ、シバヤンはちょっと大変やなぁ」



はるひってば、なんなの、まったく。
ブツブツ言ってた独り言はよく聞えないし。

私の良さって言ってたんだから悪いことじゃないんだよねぇ?
ほんとに気にしなくていいんだよねぇ???



次は、両想いになって初めてのバレンタインかぁ……。
志波への手作りチョコは去年よりバージョンアップさせる予定。
綺麗に美味しく作って、絶対ビックリさせちゃうんだ!
うううーーーー、燃えてきたーーーー!











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